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 「人間VS人工知能の頭脳対決」という見出しで騒がれた囲碁対局が、韓国で大騒ぎになった。3月9日から15日までソウル市内のホテルで行われた「グーグルディープマインドチャレンジ」では、グーグルディープマインドが開発した人工知能のAlphaGoと、韓国人でランキング世界4位の囲碁棋士イ・セドル九段が対局した。勝者には、100万ドルの賞金が贈られる。

 AlphaGoは、自ら学習するディープラーニングという機能を持つ最新人工知能である。1秒当たり10万通りの可能性を検討できるので、無敵ともいえる。それができるのは、AlphaGoにCPU(Central Processing Unit)1202個、GPU(Graphics Processing Unit)176個搭載しているからだ。

 一般にGPUは、CPUより短い時間で大量のデータ処理ができる。大体GPU12個が、CPU2000個を搭載した時とほぼ同じ性能を持つそうだ。GPUはヘルスケア、自動車、金融サービス、ロボットなど幅広い分野で、今の状態からこれから起きることを予測して人間にアドバイスする人工知能に使われている。

グーグルディープマインドが開発したAlphaGo
グーグルディープマインドが開発したAlphaGo
AlphaGoは囲碁をする人工知能である。ソウル市内のホテルで韓国人棋士イ・セドル九段とAlphaGoの対局が行われ、韓国では人間と人工知能の対決だとして注目された。
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 こうした機能から、韓国では「AlphaGoとイ・セドル九段1人が対決するのは公平な勝負ではない。囲碁棋士数十人が対局しないと、対等とはいえない」という声もあったほどだ。

 それでも第4局で、イ・セドル九段はAlphaGoに勝利した。韓国メディアは、「人間が人工知能に勝つのは、これが最初で最後かもしれない」と報道した。AlphaGoは以前、中国出身の欧州チャンピオンの囲碁棋士と対戦したことがあるが、全勝した。なぜ負けたかを自ら分析して学習し終えているはずなので、AlphaGoはもう弱点がないはずという意味である。

 今回の対局期間中驚いたのは、電車やバスの中で年配の人までも「AlphaGoが~」「グーグルが~」と普通に話題にしていたことだ。馴染み深い囲碁対決だったせいか、人工知能に興味がある人だけに限らず、子供からお年寄りまで全国民が対決を見守った。

 3月15日に行われた最終戦の第5局は、イ・セドル九段の負け。人間VS人工知能の対局は、計1勝4敗と人間の負けとなった。しかし、人工知能には勝てないと予想されていたイ・セドル九段が、第4局で見事AlphaGoに勝利したことで、グーグルディープマインドチャレンジの注目度はさらに高まった。

 第4局までは、対局を生中継したのはYoutubeとポータルサイトのインターネット放送、ケーブルテレビの囲碁チャンネルだった。それが第5局は、韓国の地上波放送3社全てが対局を生中継した。

 地上波放送3社は、5時間もかかった第5局を最初から最後までテレビで生中継した。それだけではない。放送局のホームページで、インターネット生中継も行った。テレビとインターネット、それぞれ知名度のあるキャスターと解説者、コメンテーターを用意し、囲碁が分からない人も囲碁がうまい人も楽しめるようにした。

 地上波・ケーブル・インターネット放送の視聴率競争は、凄まじいものだった。例えばケーブルテレビの報道チャンネルの生中継では、美人アマチュア囲碁棋士を解説者として投入した。ケーブルテレビ局の中には、人気のスポーツキャスターと囲碁好きサッカー解説者を登場させ、スポーツ中継のように盛り上げたところもあった。第5局を生中継したのは地上波・ケーブル合わせて10チャンネルで、全チャンネルの視聴率を合わせると9.5%になる。

 韓国の最大手ポータルサイトNAVERの発表によると、NAVERの第5局インターネット生中継は、同時接続だけで65万人を超えたほどの人気だった。NAVERのプロ野球中継が同時接続30~40万人程度なので、どれだけ注目を浴びたかが分かる。

 これほどたくさんのチャンネルが対局を中継できたのは、韓国棋院(韓国の囲碁発展と棋士育成のために設立した財団法人)が、グーグルから韓国語放送中継権と韓国インターネット放送送出権を獲得したからだった。韓国棋院は「どの媒体でも中継できるようにしたので、インターネット上の個人放送局まで入れると中継を行った媒体の数は数えきれない」という。

 イ・セドル九段は5回の対局を終えて、「大いに楽しんだ。この敗北はイ・セドルの敗北であって人類の敗北ではない」とコメントした。韓国では、AlphaGoとイ・セドル九段の対局はAlphaGoが勝っても「人間の勝利」だという声も登場した。人工知能を作ったのも人間で、人工知能に勝つのも人間だからだ。また、イ・セドル九段が1勝したことで、AlphaGoはさらに囲碁の戦略を学んだと言える。イ・セドル九段は、人工知能の研究にも大きな貢献をしたことになる。

 AlphaGoは、韓国に囲碁ブームを巻き起こした。グーグルディープマインドチャレンジが始まる前に比べて、子供向けに囲碁を教えるサイトや囲碁ゲームアプリの利用者数は急増。囲碁の基礎を教える本も、飛ぶように売れているのだとか。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
ITジャーナリスト。高校卒業まで東京で育ち、韓国ソウルの大学卒業後、ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどに連載。著書「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー刊)「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)
「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送ってます。韓国情報通信部と傘下機関・IT企業の対日戦略リサーチ&コンサルティング、日韓IT視察を企画運営するJ&JNETWORKの代表であり、韓国で唯一、日本とのITビジネス交流を図る非営利団体JIBC(Japan Internet Buisiness Community)の会長を務めています。日韓両国で生活した経験を活かし、韓日のIT事情を比較解説する講師として、韓国の色んな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです。
韓国はいつも活気溢れ、競争が激しい社会なので変化も早く、2~3ヵ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をするとなんだかきつそうな国~と思われがちですが、世話好きな人が多く、電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多く、マンションに住みながらもおいしいものが手に入ればおすそ分けするのが当たり前の人情の街です。みなさん、遊びに来てください!」