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 このところ月一冊ペースで新刊を出している精神科医の香山リカ氏による近著が、『なぜ日本人は劣化したか』(講談社新書)。そこで語られている中にはホントに劣化なのか、と思わせる例証などもあるのだが、このキーワードと問題設定の仕方自体には説得力がある。建設業(製造業)にはなじみのある“劣化”という言葉を、著者が挙げているような身のまわりのあれこれに当てはめてみる。と、思い当たる節がある……かなり多くある。

 さて、ここまでで200字。ひと段落がこれ以上長くなるとつらいな、と感じるようでしたら、あなたは既に劣化の兆しあり(らしいです)。

 かつて「ひと息で読める」文字量は800字とされていたはずなのに、いまや老若を問わず読者側の許容限界が200字にまで激減している…。仕事相手の編集者からそう指摘された香山氏が衝撃を受けるところから、話は始まる。こうした耐性の低下が、「全世代、全階層、全分野にわたって。しかも、急速に」進行している──といった仮説をまず立てた上で、社会の中に認められる様々な劣化現象を横断的に追いかけている。

 劣化か、あるいは進化か深化なのかを即断できない面もある。とした上で筆者は、臨床医としての経験から、(十分な解答には至っていないが)この“社会病理”らしきものに立ち向かう術を探そうとしている。

 最新号(2007年5月28日号)の特集「解明進む“壊れた理由”」で触れているように、能登半島地震では、放置(隠ぺい)されていた構造材の劣化が、被害を生んだ原因の一つとして改めて浮かび上がっている。物的な劣化である前に、根本にある社会・経済活動に劣化が起こり、こうした状況に目を向かわせにくくしている。その結果、記事中に掲載したような象徴的なイメージ(「外装材に隠された柱や土台の腐朽」)が表れることになった、と認識して根治療法を考えないとならないのだろう。

 劣化とは直接には関係ないが、クローズアップ建築(「AGCモノづくり研修センター」)では、設計担当者(竹中工務店の3人)による座談会を行い、表からはなかなか見えにくい発注者との(よい意味での)ぶつかり合いなども語り合っていただいている。「コンペ要項の否定」から始まった作業の過程で、設計者側の創造性がおおむね認められていくものの、どうしても発注者側が譲らなかったところもある。その一点を巡って、8時間にわたる大激論に──。

 大激論の行方と、そこで設計グループリーダーの山口広嗣氏が語っている“心構え”(設計チームの皆に求めている姿勢)とは。

 この先の「いい話」は、本誌でお読みください。冒頭の著書で香山氏が懸念しているようなメンタリティの劣化に抗する、そのための処方せんの一つが、ここには表れているのではないかと感じます。