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 名古屋市発注の地下鉄工事をめぐる談合事件で,公正取引委員会が大林組など5社を独占禁止法違反の容疑で刑事告発したのは2月28日。日経コンストラクション編集部ではちょうど,3月9日号の特集「談合リスクが変える土木の実務」の原稿を印刷会社に入れる間際のことでした。

 公取委が刑事告発するという情報は数日前から流れていたので,実際の告発を待って短時間で原稿を修正し,入稿しました。告発自体はある意味で想定内の出来事でしたが,意外だったのは,告発された会社の中にハザマの名前がなかったことです。元名古屋支店顧問が談合の仕切り役とされる大林組のほか,談合が疑われている5工区のJVの幹事会社はハザマを除いて4社(鹿島,清水建設,奥村組,前田建設工業)が告発されました。

 公取委やハザマが認めているわけではないのであくまでも状況から推し測るしかないのですが,ハザマは公取委が調査に入る前に“自首”したとみられています。2006年1月に施行された改正独禁法で談合対策が強化され,自主申告した会社に対する課徴金の減免制度が導入されました。実は,同制度を有効に機能させる観点から,調査開始前に最初に課徴金の免除にかかわる報告や資料の提出を行った会社は告発しないとする方針を公取委は打ち出していたのです。2005年10月に公表した「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」に明記しています。

 談合の自主申告を促す制度は,主に企業の法令順守の意欲を向上させ,談合の発見や解明を容易にするために設けられたものですが,日経コンストラクションの取材では談合の抑止力をも持ち始めていることが明らかになってきました。

 2006年3月に100社を超える建設会社が排除措置命令と課徴金納付命令を受けた沖縄県で取材したところ,同県の建設会社の営業マンは「たぶん,談合をしていた時代に後戻りするのは無理だと思う」と述べました。「仮に談合しても,誰かが不満を持つだろうし,いつかまた公取委に自首するに違いない」と。改正独禁法の施行を機に談合との決別を宣言した大手建設会社の営業マンは,「自首する制度がある限り,従来のようにきっちり落札者を決める談合は,あまりにも危険すぎてもう無理だろう」と告白しています。

 課徴金だけでなく刑事告発まで免れるとなれば,自首することへのインセンティブは大きくなるはずです。これまでも,公取委の専用ファクスには談合を自首する文書が毎月4,5件ほど届いているそうです。自主申告制度をはじめとするいくつかの談合対策の強化は企業の談合リスクを高め,土木の実務に大きな影響を及ぼしています。詳しくは今号の特集記事をお読み下さい。

 もっとも,刑事告発まで免れる現在の自主申告制度が法制面からみて妥当かどうかは,議論の余地があると思います。もしも,談合の仕切り役とされる容疑者の在籍した大林組が自首して,課徴金や刑事告発を免れるとしたら,その制度自体がおかしいと誰もが考えるのではないかと,編集部内でも議論になりました。

 その一方で,独禁法の三罰規定の適用も取りざたされています。会社の代表者が違反行為を知りながら是正に必要な措置を講じなかった場合に罰金を科す規定です。法を犯した個人と法人を罰する両罰規定に加えて会社の代表者を罰する三罰規定が適用されれば,建設業界に対してさらに大きなインパクトを与えることになります。

 いずれにしても法令順守の体制を一日も早く構築し,技術や品質,生産性などで競争力を持つ存在として脱皮することが,一技術者にも一企業にも求められています。過当競争下で簡単には前進できないいばらの道ですが,そこを突き進むしかないでしょう。日経コンストラクションでも,本格的な技術競争の時代を生き抜くために必要な情報を重点的に提供していきたいと考えています。