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「日本の学生たちは、みんなおとなしい」。こう安藤忠雄氏はとらえる。これから社会に出ようとする学生はどのような心構えで臨めばいいのか。安藤氏にアドバイスをもらった。

 私は建築に夢を見てきた。もう“箱”は要らないといわれるが、日本の建築技術は、1945年に焼け野原となったこの国をここまでつくり上げてきた。都市や建築は、もう少し計画性があった方が良かったかもしれないが、よくつくったと思う。

 品質のレベルも高い。日本が世界に誇れるものは、もちろんIT技術やエレクトロニクス、自動車技術などもあるが、土木技術と建築技術は世界で最高水準にあると思う。技術者がスケジュール管理をこれだけできる国は少ない。欧米に行くと工程を管理できておらず、品質管理の乏しさにつながっている。

 今の建築技術者たちは、そうした技術を持って日本の国をつくり上げてきた。学生たちはこれから、この国をもう一度、新しい方向に導いていく技術者だ。日本の建築技術を支えていくんだというプライドを持ってほしい。

 プライドを持つためには、少なくとも日本の建築技術について、きちんと勉強しておかなければならない。江戸時代以前から現代に至るまで、日本の建築を勉強する。その中に自分の心に引っ掛かるものが必ずあるはずだ。

 例えば、姫路城。あれだけの規模の美しい城を日本の建築技術者は築いた。石垣などの土木技術も含めて、建築の力強さを感じる。一方で、千利休の「待庵」のような小さな茶室も建築技術によってつくられた。あの小さい建物の中にも、大きな心の世界をつくり出せる。

 大は姫路城から、小は待庵という茶室まで、建築に携わっていれば、どこにでも自分の心を表現できるものがある。夢をかなえるんだという強い思いがあれば、建築技術者は良い職業だ。

まず表現するのは自分だ

 私が今までに設計してきた建築に対して、海外のメディアから資料提供の依頼が来ることもある。一番、依頼が多いのが、神戸市垂水区に建つ「4m×4mの家」という住宅だ。海外のメディアは、あの住宅に可能性を感じるという。

 小さい住宅の設計は、大部分の設計者が経験すること。大きな建築よりも、むしろ小さい方が理解しやすいので、注目される機会は多いかもしれない。


神戸市垂水区に建つ「4m×4mの家」(写真:寺尾 豊)

 若い学生たちには、いろいろなことに挑戦しながら、自分はどこで勝負するのかを探してほしい。かかわってみなければ、何に活路を見いだせるのか、分からない。建築は様々な表現の機会を得られるが、その中から可能性を自分で育てていかなければならない。

 現在、東京湾のごみ埋立地を緑の森に変える「海の森」プロジェクトを進めている。一口千円の募金を募って、ごみの山に植樹する。寄付をする人に対して、「あの森は自分のものだと思え」と説明する。そうやって、自分のものだと思えるものを、たくさんつくらないと駄目だ。

 今の日本の学生たちは、みんなおとなしい。私の事務所にも今、学生のアルバイトが3人来ているが、先に意見を言わないようにしている。まずは自分の意見を言えと、説明している。言葉で表さないと、まわりの人には伝わらない。

 日本人は話をするのが下手だ。意見を言って、間違っていたり、相手に嫌がられたりすることを恐れている。だから、みんな黙ってしまう。しかし、建築というものを表現しようとする人間が、自分自身を表現できないとどうしようもない。建築を職業として選ぶならば、まず表現するのは自分だ。 (談)


安藤 忠雄氏
1941年大阪府生まれ。69年安藤忠雄建築研究所設立。最近の代表作は地中美術館、表参道ヒルズ、21_21 DESIGN SIGHT、坂の上の雲ミュージアム、東京大学情報学環・福武ホール、東急東横線渋谷駅など。東京大学名誉教授・特別栄誉教授(写真:吉田 明弘)