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 会場中央の吹き抜け空間に漂う巨大なアルミの構造物。2007年10月から08年1月にかけて開催され、話題を呼んだ東京都現代美術館の「Space for your future」展。なかでも、石上純也氏の「四角いふうせん」の注目度は抜群だった。豆粒ほどの大きさの花瓶やコップを無数に置いた「リトルガーデン」も出品。大場秀章氏(植物学者)とともに、08年9月~11月の「第11回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」で日本の出展者(コミッショナー:五十嵐太郎氏)として設計を手掛けた。

 08年1月には、建築で初めての実作となる神奈川工科大学KAIT工房が竣工と、台頭する30代の中でも幅広い活躍で際立つ。アートと建築を架け渡すような作風や建築家らしからぬ風貌。建築からの越境ととらえられることも多い。しかし、姿勢は極めて建築的である。

 デザインで何よりも重視しているのは「バランス」だという。「四角いふうせん」の場合、極端な抽象性が出てしまって、中にヘリウムを入れて浮かせていることがトリッキーに見えないように心がけた。「それで表面をテロテロした感じに仕上げ、具体的な『風船』のイメージを超えないタイトルにした。そんな風船を吹き抜けの空間にどうフィットさせるかを考えた」。

 会場を訪れて印象的だったのは、時を忘れたように、くつろいだ表情で眺めている人々の姿だった。抽象性と素材性、未知と既知、観念性と場所性の間を揺れ動く風船が、様々な連想を呼び起こすのだろう。

 見入ってしまうのは「リトルガーデン」も一緒だ。極小の花瓶やコップの中に花などが差してあって、眺めているうちに意識が容器の内側に入るような感覚に陥る。「意識を変えるだけで俯瞰したり、動き回るイメージで空間を体験できたり。どこで風景が空間の体験に置き換わっていくかということに興味がある」。原寸と模型、あるいは観念と実際という区別を石上氏はしない。追い求めているのは両方を行き来するようなものだ。


ヴェネチア・ビエンナーレの出展作。植物学者の大場秀章氏が協力、構造は佐藤淳氏が担当した(写真:石上純也建築設計事務所、Courtesy of Gallery Koyanagi)

 「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」では、既存の日本館の内外に、庭のように植物の温室を配列した。始まりは「建築物とも模型とも呼べないものをつくりたい」という考えだった。植物の原寸に合わせた新たなスケール感を示す狙いだ。神奈川工科大学では、人力とコンピューターを駆使して、構造体でもあるフラットバーの柱をランダムに配置。原理は一貫しているが、人が動いたり、機械が入ったりすることで空間の印象が一変する。様々な現象を許容するような「自然の現象に似た強度の高い抽象性」(石上氏)を目指した。

 「僕らが実感できるリアリティをつくり出すのが建築家やデザイナーの役割。そこを外してしまえば、今はどんな素人でもものがつくれてしまう」と語る。からだ全体で味わっているのだけれど、どこまでが実感で、どこからが頭で考えたことなのか分からなくなるような建築の経験。訪れなければ分からない、そんな「アーキテクチュア」の中心をとらえて、石上氏は活躍の場を広げる。


石上 純也氏
1974年神奈川県生まれ。2000年東京芸術大学大学院修了。00~04年妹島和世建築設計事務所勤務。04年石上純也建築設計事務所設立。05年キリンアートプロジェクトに出品した「table」はイスラエル美術館に収蔵されている(写真:倉方 俊輔)