PR

「住空間が、人の健康のためにできることは何か」。そんな問いを投げ掛ける「健康維持増進住宅設計コンペティション2008-2009」が開催される。応募案に期待することなどを審査委員長の隈研吾氏(建築家・慶応義塾大学教授)と副委員長の小泉雅生氏(建築家・首都大学東京大学院准教授)が語り合う第2回目。「住宅における健康」を考えるうえでのキーワードを挙げながら、話題は多方面に広がった。主催は健康維持増進住宅研究コンソーシアム。事前登録締め切りは2月末日、応募締め切りは3月13日。(聞き手は日経BP社建設局プロデューサー、山本恵久)


●本コンペの要項、応募シートなどについては「建築環境・省エネルギー機構 IBEC」のご案内ページ(http://www.ibec.or.jp/consortium/kenko.html)をご覧ください。

●対談の第1回目については「コンペ登録期限迫る!「人を健康にする住空間」を隈氏と小泉氏が語る」(http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/column/20090204/530191/)をご覧ください。



対談の中での2人の関心は多方面に及び、「健康維持増進住宅」が持つ奥行きを伺わせる内容となった (写真:稲垣 純也)


「健康影響の低減」だけでなくポジティブな「健康増進」を考える

──環境問題やシックハウス問題に対応し、「健康にいい」とうたう建材などが増えてきた。そうした流れと今回のコンペとはどのように結び付くのか?

 これまでの流れはどちらかと言うと、環境負荷が大きくないか、住まい手が不健康にならないかといったネガティブ・チェックの側面が強かった。建材などを物質として扱う場合に、ポジティブにどう評価するか、デザインにどう生かしていくかということが、これからの課題だ。

小泉 住宅と健康の問題を考えるにあたり、健康維持増進住宅研究委員会(現コンソーシアム)では「健康影響を低減する」「健康を増進する」の2つの側面があると整理している。

 「影響を低減する」については、マイナスをなくせばいいので、どちらかというと取り扱いがラク。一方、「増進」のプラス側については評価するのが難しく、取り扱いにくい。けれども、建築の可能性を考えるときには、「健康を増進する」という前向きな側面についてもぜひ取り組みたい。そこで今回、コンペで提案を募ろうということになった。

 マイナスをチェックする発想なら、コンペよりもコンテストが合っている。それだけでは可能性が広がっていかないので、コンペの形式を取っている。

──現代の住宅として提案するならば、かつて考えられていた「健康」とは必ずしも同じではない今の時代の持つ様々なファクターを反映したものとする必要がある。そのあたりの議論は?

小泉 実際の住宅にどのような形で取り入れていくかは、まさしく今、コンソーシアムで議論しているところだ。我々のような建築の設計者や研究者だけの議論では、話がすぐに建築に収れんしてしまう。だから社会学や医学、美容関係などできるだけ異分野の人たちの話を聞きながら進めていきたい。建築関係についても、学生や若い設計者からの幅広いアイデアをぜひ取り入れたいと考えている。

 美容関係の人の話で面白かったのは、「これをやると肌がきれいになる」といったように、“肌”を基準にしていること。例えば、商品を評価するときに、「この商品を使ったら肌がどうなったか」を調べれば、ある程度検証できるということだった。

 なるほど。肌と健康の間には確かに密接な関係があるのかもしれないね。

小泉 ペットや植物を育てるのも、人間にとっての活力の源になる。ペットにはダニなどのマイナス面もあるが、ペットを養うために体を動かして身体機能を維持でき、健康にとってプラスになる面もある。例えば、ペットを飼っている高齢者は餌を買いに出かけるので、それが健康維持につながったりする。医学界の人たちからはそういった話も聞いた。

 それが本当の「共生住宅」かもしれないね。黒川紀章さんの言う共生は、例えば山の形と建築の形が似ているとかの意匠の話が中心だったけれど、もともと人間は動物や植物と本当の意味で共生していたわけで、そこに目が向かっている。単なるブームではなく、人間の原点に戻ろうとする深いところから来ている欲求のような気がする。

 そういったことをベースにして建築を設計し直すというのは面白いかもしれない。そんな提案も欲しいな。

新しい家族像や多様化するライフステージに住宅はどう対応するか

小泉 環境問題も同じだと思う。CO2の排出を減らすとか、石油エネルギーを使わないとかいった大層なことばかり言うのではなくて、隣の人、隣の生き物、隣の植物と親しい関係を築いていくことが大事じゃないか。それが環境保全につながるんじゃないかと。

──住宅設計においては、建築をつくる側の関心事としてずっと「家族」の問題があった。この点はどうか?

 家族よりペット、っていう人も増えているからね(笑)。20世紀の住宅の計画案の基準は、家族の部屋をどう配置するかだったけれど、人間は必ずしも家族と住まなくてもいいわけだから。ペットと一緒の方が暮らしやすい、という人もいるはず。

小泉 戦後、家族はどんどん小さくなっている。大家族だったのが核家族になり、さらに単身家庭が増えて。核家族も何年かたてば子どもは独立して出て行ってしまう。寿命が延びたから、子どもが出て行き、仕事を辞めてからの期間が長い。体力はあるけれど、暇を持て余す。そうなったときに、個人として時間の過ごし方を考えなきゃいけないし、建築の方もそれに対応する必要がある。

 提案募集にあたって言っておきたいことの一つが、現代では「ライフステージ」が多様化してきていて、それがもっと進むだろうということ。昔は子育て期があって、壮年期があって、後は高齢期と大雑把にくくっていたけれど、実は子育て期だって、親のサポートが必要な小学生までの時期と、中高生以降では親のかかわり方はかなり違う。高齢者も昔は退職したら即、老人扱いだったのが、今は退職したてのころなんてものすごく元気。それからずっと先になって、介護などが必要になる場合もある。

 年を取るというプロセス自体は同じでも、段階ごとのライフスタイルに、きめ細かに対応していかないといけないんじゃないか。今までのように高齢者住宅イコール介護住宅だ、ということではないと思う。

 リタイアした後、自宅が事務所的要素を持つ人も増えているしね。SOHOの議論なども高齢者問題と結び付けて考えることが必要だ。

小泉 感覚的な話だけれど、最近、世の中の人の在宅時間は長くなっているような気がする。インターネットや在宅勤務の普及で、家の外に出なくても事が足りるようになってきた。さっき「食事や教育など家の中で営まれていた機能が、分化して外へ出て行った」と言ったけれど、いったん出て行った機能が、これからもう一度、家の中に回収されていくんじゃないか。

◆next:地域やライフスタイルもセットで考える