PR

天然と人工、上からと下から――感覚を刺激する光のデザイン

 弧がつくり出す行き止まりのない空間に誘われ、建物の内外を歩き回ってみると、これが実に愉(たの)しい。その愉しさは各部の形や空間のボリュームだけによるのではない。光のデザインから来るものだろう。

 食堂にトップライトからの光が注ぐ。廊下の二重天井に空いた穴からは天然と人工の光が合わさって落ちる。しかも光は上から来るとは限らない。柱に付属した照明は横からの光であり、食堂や談話室には下からの明かりが仕組まれている。

 光の分布が空間をつくり、それぞれの場所を身体に刻み込む。約2メートルの低さにまで下げられた廊下では、その感覚が特によく分かる。頭のすぐ上に天井がある。それを意識しながら歩を進める。開口部の真下に来ると、光を浴びている感触がする。意識的にものを考えたり、見たりというより、もっと原始的な感覚だ。そんな感覚を編成するものとして、天野は「有機的建築」をとらえていたようだ。

2階廊下の天井高は約2mに抑えられている。左手が1階に降りる階段。正面が東バルコニー (写真:倉方 俊輔)
2階廊下の天井高は約2mに抑えられている。左手が1階に降りる階段。正面が東バルコニー (写真:倉方 俊輔)

2階廊下。開口部の真下に来た時には、上方からの光を全身に浴びる (写真:倉方 俊輔)
2階廊下。開口部の真下に来た時には、上方からの光を全身に浴びる (写真:倉方 俊輔)

2階廊下の見上げ。人工と自然の光が合わさって落ちる (写真:倉方 俊輔)
2階廊下の見上げ。人工と自然の光が合わさって落ちる (写真:倉方 俊輔)

2階の食堂の一部が、半円形のコーナーになっている (写真:倉方 俊輔)
2階の食堂の一部が、半円形のコーナーになっている (写真:倉方 俊輔)

竣工当時から変わらない2階食堂の板張り天井。トップライトの内部はしっくい仕上げになっている (写真:倉方 俊輔)
竣工当時から変わらない2階食堂の板張り天井。トップライトの内部はしっくい仕上げになっている (写真:倉方 俊輔)

人工照明が仕組まれて、食堂の壁際を下から照らす (写真:倉方 俊輔)
人工照明が仕組まれて、食堂の壁際を下から照らす (写真:倉方 俊輔)

 一般的には、この建物のような凹凸のある構成やトップライトは雨仕舞などの関係で改修されがちだが、ここでは適切なメンテナンスで本来の姿を保っている。その後の増改築に建築家はかかわっていないが、本来あった空間の性格が尊重されている。中でも旧厨房を改造した記念室は、最初からこうだったのではと思わせる室内だ。

 大切に使われているからこそ、この建築から天野の真価が明らかになる。ゴルフコースを設計するかのように自然の性格を読み、定規とコンパスを操って、何度訪れても飽きの来ない流動的な空間を生み出す。そんな設計者の目指した愉しみが、今も息づいている。

■ 建築概要
名称=嵐山カントリークラブハウス
所在地=埼玉県比企郡嵐山町鎌形1146
設計=天野太郎研究室
施工=白石建設
構造=RC造
階数=地下1階・地上2階
竣工=1961年