保険屋が見た「建築のプロ責任」
目次
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建築士の責任:重大な役割を自覚せよ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(58)
「温泉爆発 施設元役員に無罪」という白抜きの大きな活字の横に、それよりは少し小さな活字ではあるが「東京地裁 設計の大成社員有罪」とある。2013年5月9日付読売新聞の夕刊トップ記事の見出しは、衝撃的なものであった。特に大手ゼネコンの社員として、同じような職責を担っている設計者のみなさんは、複雑な思い…
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建築家の責任:「上から目線」ではダメ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(57)
本コラムに対する投稿の中で、時々筆者が「上から目線」であるとのご指摘を受ける。その都度読み直しては反省するのだが、つい先日もまたそのような投稿に出会った。長年にわたって講師の真似ごとのようなこともやっているので、先生稼業が身についてしまったのであろうか?
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建築士の責任:契約前に業務報酬を具体的に取り決めよ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(56)
業務遂行上の注意義務について、現在も生き続けている古い法律解釈がある。大正12年(1923年)、大審院時代の判例だ。「一定の業務に従事するものは、業務の性質に照らし危害を予防する一切の注意をなすべき義務を負い、法令上明文のない場合にもこの義務を免れることはできない」(「判例六法」、有斐閣)
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つくり手の責任:「慰謝料」請求もある!細心の気配りを
保険屋が見た「建築のプロ責任」(55)
「カネミ油症賠償認めず、認定患者の請求棄却 地裁小倉支部」。2013年3月22日に掲載された日経新聞の記事である。「えっ!まだやってたんだ」と筆者は驚いた。1968年西日本一帯で起きた、食品公害の賠償事件である。こうした人の生命を脅かすような賠償問題に、「慰謝料」という言葉は、いわばつきものである。…
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つくり手の責任:事故回避には「勇気ある撤退」も
保険屋が見た「建築のプロ責任」(54)
日本建築士事務所協会連合会(日事連)が発行する「新しい建築士事務所の業務と展望」という書籍がある。建築士法第27条の2第7項に基づく「開設者・管理建築士のための建築士事務所の管理研修会」用のテキストとして使用するものだ。筆者も、その「B実務編」にある「建築士事務所賠償責任保険の事故例に学ぶ」を担当し…
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つくり手の責任:「不可抗力」による事故に備えよ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(53)
「18億円超の損害賠償請求、ミューザ川崎の天井落下」。ケンプラッツは1月21日の記事で、こう報じた。東日本大震災で、シンフォニーホールの吊り天井が落下した事故をめぐるレポートだ。事故直後の写真を見る限りにおいては、演奏中でなくて本当によかったと感じた。
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国民の責任:「トモダチ」の訴えを受けて立つ覚悟を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(52)
暮れも押し詰まった2012年12月28日、日経新聞に「被災支援の米兵、米で東電を提訴、『被ばく』損賠94億円」という予期せぬ形の賠償請求事件が報道された。被災地支援の「トモダチ作戦」で急派された際に、福島第一原発の事故による影響について、正確に伝えられていなかったために、空母ドナルド・レーガンの甲板…
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建築家の責任:エンパイアステートビルに学ぶ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(51)
2012年3月31日の閉館を待つようにして、「赤プリ」が一時的に、東日本大震災による被災者たちの避難施設となったことはご存知の通りだ。テレビのニュース番組のなかで報道された、避難家族のはじけるような笑顔を、複雑な思いを抱えながら筆者は見ていた。単なる偶然に過ぎないが、日事連の建賠保険も「赤プリ」と同…
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大人の責任:震災の記録を残して後世に伝えよう
保険屋が見た「建築のプロ責任」(50)
安心・安全ということになると、心配性の保険屋にまた、空恐ろしい情報がインプットされた。情報の提供者の名は、物理学者で、随筆家としても知られる寺田寅彦(1878-1935)である。出典は1931年(昭和6年)1月号の「中央公論」に掲載された「時事雑感」という随筆である。そのなかの「地震国防」という項に…
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国政に携わる者の責任:ブルーノ・タウトの心に学べ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(49)
「自公320超 政権奪還」。これより大きな活字はないと思えるような白抜き横断幕状の見出しが、2012年12月17日の日経新聞の1面に踊った。景気回復への期待が膨らんでいるようだ。つい3年ほど前に同様のことが起こり大いに期待したものだが、「政治ごっこ」に終わってしまった。
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国や自治体の責任:事故を防ぐ気概が伝わる点検を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(48)
第28回「NAHAマラソン」は土砂降りの雨の中で行われた。12月3日の琉球新報のトップは、この記事が飾るはずであったに違いない。同じ1面でも、それを左端に追いやったのは「山梨・中央道 トンネル天井崩落 3台下敷き、4人超死亡」という惨事の報道であった。その後、犠牲者の数は9名となった。筆者は那覇市内…
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建築士事務所の責任:予見可能なリスクを回避する
保険屋が見た「建築のプロ責任」(47)
社団法人の東京都建築士事務所協会では1995年から、新規登録事務所を主な受講者とする講習会用のテキストを発行している。「これからの建築士事務所」(監修:東京都都市整備局市街地建築部)という出版物だ。筆者が改訂作業に関わった。7-1「業務紛争の事例に学ぶ」という節の書き出しに、建築物の品質確保のための…
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公的発注機関の責任:入札ダンピング排除へ本気度示せ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(46)
「千葉県警、入札妨害容疑、県職員ら逮捕」。10月19日の日経新聞の片隅に、謝罪する県職員の写真を添えた記事が掲載された。「県民の信頼を裏切り申し訳ない。事実関係を確認し、再発防止に努めたい」と頭を下げた。お決まりのせりふを吐きながら、腹の底では運の悪いときに、責任者の地位についてしまったなあと、ため…
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日事連の責任:「建築士事務所憲章」の実践者に表彰を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(45)
社団法人の日本建築士事務所協会連合会(日事連)は創立50周年を迎えた。事業の一つに、1985年に始めた建築作品の表彰がある。「優れた建築作品を設計した建築士事務所を表彰することを目的として」創設されたと、創立50周年記念誌に記されている。目的がこれではシンプルすぎてもの足りないが、最優秀作品には「国…
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業界7団体の責任:監理者の責任が明確な約款に
保険屋が見た「建築のプロ責任」(44)
前回に引き続いて、「民間連合協定 工事請負契約約款」(以下、民間契約約款)に触れたい。この中で、私が最も気になっている点は、「監理者」の業務について規定した第9条である。
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つくり手の責任:約款の瑕疵担保期間を見直せ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(43)
民法第634条「請負人の担保責任―瑕疵の修補」1の条文は「仕事の目的物に瑕疵あるときは注文者は請負人に対し相当の期限を定めて其瑕疵の修補を請求することを得。但瑕疵が重要ならざる場合に於て其修補が過分の費用を要するときは此限り在らず。」となっている。この条文の但し書きについては、建築主の立場になって考…
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つくり手の責任:PL法に無関心ではいられない
保険屋が見た「建築のプロ責任」(42)
「学童保育クラブに設置されたトイレの開き戸型ドアの隙間に低学年の小学生が指を挟まれた事故について、小学生の本来の用法以外の危険な用法があったとし、ドアの製造業者の製造物責任が否定された事例」――。判例時報2113号に掲載されていた事件である。表題だけで事故の概要は自明なので詳述は避けるが、建築物の持…
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つくり手の責任:「強く、やさしく、美しく」を心がける
保険屋が見た「建築のプロ責任」(41)
私が日本の建築業界を強く憂うるようになったのは、1998年ごろだ。ちょうど「ブルーマンデー」という言葉が流行っており、私の仕事がその状態になり始めていた。休み明けには欠かすことなく、建賠保険(日事連・建築士事務所賠償責任保険)の新規の事故相談が入るのだ。この状態は、困ったことに、その後、今日まで切れ…
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有名建築家の責任:耐震化促進に積極関与すべき
保険屋が見た「建築のプロ責任」(40)
都は耐震化施策の推進部隊の一つとして「マンション啓発隊」を組織している。マンションだけではなく戸建て住宅についても同様の取り組みが求められるはずだ。大手ゼネコンが、各社から優秀な社員を動員して、あえて木造住宅のための「啓発隊」を組織してはどうか。同じような理由で、著名な建築家がこうしたプロジェクトに…
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事務所協会会員の責任:事件機に「隗より始めよ!」
保険屋が見た「建築のプロ責任」(39)
建築設計界の信頼を揺るがす大事件が発生した。7月12日付で新聞各紙が報じたニセ建築士事件だ。日本経済新聞は「一級建築士の免許偽造」と報じた。社会面だったが、かなり大きな活字だったので、そのページを開いたときに真っ先に目に飛び込んできた。三重、大阪、新潟の3府県の男性3人が、一級建築士の免許証を偽造し…