保険屋が見た「建築のプロ責任」
目次
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プロの責任:震災復興でいい加減なものはつくれない!
保険屋が見た「建築のプロ責任」(38)
NHKが6月4日に放映した「プロフェッショナル 仕事の流儀」に建築家の手塚貴晴・由比夫妻が登場した。番組で取り上げられた現場は、東日本大震災の津波によって流されてしまった「あさひ幼稚園」(宮城県三陸町)の園舎を再建するプロジェクトだ。「ふたりが信じれば、大胆になれる」と息の合ったコンビぶりである。
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大手ゼネコンの責任:倫理観もち業界のリ-ダーたれ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(37)
「安全神話」が捏造されてゆく過程の目撃者になるとは思いもよらなかったが、大飯原発再稼動へ向けての手続は茶番劇としか映らない。その安全性を判断するルールや体制の確立されないまま、地方自治体の長の判断を拠りどころに三閣僚によって決断された。いざ事故となると1年経っても、事故現場の正確な把握すらできないま…
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建築士事務所の責任:建賠保険を育てる
保険屋が見た「建築のプロ責任」(36)
建賠保険は、設計ミスだからといって何でも建賠保険が対応できるわけではない。基本的には、設計した建築物に外形的かつ物理的な「滅失・破損」の状態が生じない限り、保険事故とはみなされない。年間に100件を超す事故相談を受けるが、その1/3以上はこの部分に引っかかって保険金支払いの対象とならないのである。
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建築士の責任:安全の価値共有できるパートナーを
保険屋が見た「建築のプロ責任」(35)
連載の第14回で、安全性に疑問がある超高層ビルに、東京都の耐震認定証に「?」マークを追加して付けるべきだ、と提案した。この考え方を建築基準法に規定される「特殊建築物」にも導入したくなるような事故が起こった。広島県福山市で、宿泊客7人が死亡、3人が重傷となったホテル火災だ。
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建築士事務所の責任:時間かけ、やるべきことをやる
保険屋が見た「建築のプロ責任」(34)
設計と異なる施工や不完全な設計図という話は、一般社会ではなかなか理解されないだろう。どうみても、やるべきことがきちんとやられていない。物づくりの世界で、設計図と異なるものを造ることをやっていたら、まともなものができるはずがない。ところが建築の場合、独占的な国家資格を持つはずの建築士によって作り出され…
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3団体の責任:保険一本化し事故情報を建築界で共有
保険屋が見た「建築のプロ責任」(33)
「朱鷺メッセ事故訴訟、新潟県の訴えを棄却」という見出しの記事が3月30日にケンプラッツに掲載された。この判決を知ったときの第一印象は、素直に「意外な結果」ということだ。地震や台風でもないのに連絡橋が落下した以上は、建設に関わった誰かの責任であることは疑う余地がないと考えていたからだ。
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業界団体の責任:懲罰委員会を組織せよ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(32)
日経アーキテクチュアは1月10日号で「平凡だけどすごい 現代の腕利き」の特集を組んだ。その中で、「改修設計は施工までトータルで」というタイトルでリノベーション会社2社を紹介していた。記事にれば、「リノベーションとは、既存の建物に新たなデザインや設備を投入し、その付加価値を高める手法」と解説されている…
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市民の責任:日本版「オンカロ」の建設を実現させよう
保険屋が見た「建築のプロ責任」(31)
使用済みの核燃料をめぐる現状を「トイレのないマンション」と、誰かが言っていた。言い得て妙である。ただし、そんなに生易しい問題ではない。このままでは46億年の命を刻んできた奇跡の星・地球を、人類が住めない場所に自らの手でしてしまいそうなのだ。
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建築士事務所の責任:建賠保険への加入はマナー
保険屋が見た「建築のプロ責任」(30)
日経アーキテクチュア2012年2月10日号の特集「職人不足からの脱却」で、保険の必要性に言及していた。説明会場の様子を紹介する写真の説明書きには、太字ゴシック体で、なんと「保険未加入対策に国が本腰」となっていたのだ。営業の現場を離れたとはいえ、保険屋の性(さが)のようなもので、建築士事務所賠償責任保…
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管理建築士の責任:PMの役目を果たすべき
保険屋が見た「建築のプロ責任」(29)
耐震強度不足を見逃したとして、マンション住民が指定確認検査機関の日本ERI(東京)や横浜市などに14億3600万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁が約14億円の支払いを命じた判決を一般紙が2月1日付の朝刊でいっせいに報じた。日本経済新聞のタイトルは「検査機関に賠償命令」。サブタイトルでは「耐震偽装…
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構造設計者の責任:契約関係なくとも不法行為責任あり
保険屋が見た「建築のプロ責任」(28)
元請け建築設計事務所から依頼を受けて構造計算を行った建築士(以下、構造設計者)の計算ミスを理由に、マンションの管理組合が損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁は2011年3月24日付で損害賠償を認める判決を下した。1年近く前の判決だが、東日本大震災の直後だったため、あまり報じられていないので改めて取り上げ…
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国の責任:最悪のシナリオを想定したリスクマネジメントを
保険屋が見た「建築のプロ責任」(27)
日本経済新聞は1月8日付で「外資損保と契約見送り/東電、福島第一の保険で」と報じた。日本原子力保険プールに保険の継続を打ち切られた東京電力が、1月中旬から外資系損保の「エース損害保険」との間で契約する予定で進めていた。その保険契約の切り替え作業が暗礁に乗り上げたのだ。昨年暮れも押し詰まって、引き受け…
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職能団体の責任:自称「建築家」で建築主の信頼は得られるか
保険屋が見た「建築のプロ責任」(26)
建築主が主張する欠陥は、構造、耐火、雨漏り・漏水など様々。さらに建築主は、設計を担当した建築士が資格を持たなかったことを自称「建築家」であったと問題視し、日本建築家協会(JIA)に懲戒処分を請求していた。
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事務所協会の責任:建築主の利益保護が求められている
保険屋が見た「建築のプロ責任」(25)
岩手県で木造住宅90棟に壁量不足が発覚した。11月14日にケンプラッツに掲載された記事だ。「4号建築物の特例」の問題は、大きな反響を呼んだようで、読者からのコメントが多数寄せられていた。興味を覚え、コメントもつぶさに目を通してみた。そして、当たり前のように建築基準法や建築士法に違反する行為が存在する…
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公共発注の責任:「安かろう・悪かろう」で無駄遣いするな
保険屋が見た「建築のプロ責任」(24)
税金を大切に使うということに異論はない。しかし、金を惜しんで、後から維持管理に大金が必要になったのでは、まったく意味がない。例えば、新築時に安普請で済ませたため、雨漏り補修費がかさんで、「建て替える」などということになったら元も子もない。公共建築物の「安全・安心」を確保する上で、「価格競争」のみに陥…
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監理者の責任:現場監督を引き受けるわけではない
保険屋が見た「建築のプロ責任」(23)
工事監理業務の責任をめぐるトラブルの種は尽きない。建賠保険の事故報告でも、当事者間で責任の範囲が不明確なまま業務が行われていることがうかがえる。最高裁判決で「将来の危険にも賠償責任を認める」と判事したことを連載の第16回で触れた。「不法行為責任」がこうして厳格に追及される時代になったことを考え合わせ…
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瑕疵保険法人の責任:雨漏りから建築主を救う
保険屋が見た「建築のプロ責任」(22)
住宅瑕疵担保責任保険法人たてものが業務を廃止したニュースが、9月15日にケンプラッツで報じられた。保険法人発足後、僅か2年足らずである。日ごろから建築物の安全・安心の確保をテーマに生きている身としては、複雑な思いも交錯する。
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建築主の責任:土地の瑕疵を設計者や施工者に転嫁しない
保険屋が見た「建築のプロ責任」(21)
地盤の問題は、難しいことが多すぎる。地盤の専門家でも予測できないような、不可抗力が山ほど存在する。掘ってみなければ分からないというのが、おおむね正解なのかも知れない。その上、事前の調査にかけられる費用には限りがある。恐ろしいことには、その処理を巡っての責任の落とし所が複雑怪奇である。
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管理建築士の責任:経営者に逆らってでも安全・安心の確保を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(20)
数々の大事故を題材にした「失敗学実践講義」の文庫増補版を改めて読んでみた。著者は東京大学名誉教授の畑村洋太郎・工学博士。第1講から補講にいたるまで10章立ての講義になっている。建築物については、第1講で、2004年に起こった六本木ヒルズの大型回転ドア事故を取り上げている。
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リスクマネジャーの責任:地震保険に加入しないと首が飛ぶ
保険屋が見た「建築のプロ責任」(19)
米国系の企業の多くは、日本へ進出すると火災保険の何倍もの保険料を負担して、地震リスクに備える。震国で保険に加入しないまま被災して、会社に大きな損害を与えることになれば、間違いなくリスクマネジャーの首が飛ぶ。リスクの捉え方、それに対する備え方、発想が日本とは異なるのだ。