保険屋が見た「建築のプロ責任」
目次
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建築家の責任:既存不適格の看過こそ不法行為
保険屋が見た「建築のプロ責任」(18)
本シリーズ「既存不適格に不法行為責任が及ぶ?」で示した筆者の問題提起に対して、大森文彦弁護士は、日経アーキテクチュア9月10日号で、今回の最高裁による判断を既存不適格建築物に適用するのは誤解である、と明快に解いてくれた。しかし筆者は、建築界のプロ中のプロが既存不適格建築物を放置する行為こそ、不法行為…
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つくり手の責任:確率論を持ち出さずに安全を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(17)
原発の「安全神話」の根拠となったのが確率論である。ところが、大きな事故だけでも、この30年ほどの間に既に3件発生している。1979年のスリーマイル島、1986年のチェルノブイリ、そして福島第一である。ちょっと納得がいかない。
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つくり手の責任:既存不適格に不法行為責任が及ぶ?
保険屋が見た「建築のプロ責任」(16)
建築物を所有し占有する側は事故の際に、責任問題を厳しく追及される。所有者・占有者に責任を押し付けたままで、設計や施工にかかわったつくり手側が知らぬ振りをできるものであろうか?その疑問への司法上の回答とも思える最高裁判決が2011年7月21日に下された。つくり手側にとっては「あまりに厳しい」と感じるで…
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建築士の責任:国家資格者にふさわしい身の処し方を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(15)
東日本大震災によって、開港して1年の茨城空港で天井パネルが落下した。その様子を伝える映像は、テレビのニュースでも報じられた。まさに危機一髪の瞬間だ。東京都庁の天井落下事故同様、負傷者が出なかったことが奇跡のようだ。
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都の責任:超高層ビルに「?」印の耐震認定証を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(14)
東日本大震災を契機に、超高層ビルの安全性に注目が集まっている。震災発生以前にも、建築界の内部で超高層ビルの安全性の再検証を求める声が挙がっていた。日本建築学会が、日本に存在する約2500棟のうち「100棟以下、数十棟」は、大地震時に構造被害が生じる可能性があると指摘していたのだ。
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知事の責任:「安全神話」という根拠なき風評に立ち向かう
保険屋が見た「建築のプロ責任」(13)
木造の建築物は、他の構造の建築物と比較すると火災の発生したときには全焼しやすい。そのため保険の世界では、PML(Provable Maximum Loss)を100%と想定する。PMLとは、予測できる最大の事故を想定して、保険会社が引き受けた保険の保有額を決める際に用いる指標だ。
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保険の責任:地震保険の加入率わずか23%でいいか
保険屋が見た「建築のプロ責任」(12)
1995年に発生した阪神・淡路大震災以降、地震保険の加入率は、全国的に毎年コンスタントに上昇した。1994年度末に9.0%であった全国平均の加入率は、2009年度末には23.0%となっていた。
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金融機関の責任:二重ローンに苦しむ被災者を救え
保険屋が見た「建築のプロ責任」(11)
姉歯事件の時にも、筆者は「ローンの棒引きをしたらどうか」と乱暴発言をした。バブル崩壊後、金融機関に対しては多額の公的資金が注ぎ込まれた。その恩に報いよ、という趣旨である。東日本大震災の被災者が背負わされるのであろう二重ローンの苦しみを、姉歯事件と同じ思いで手をこまねいている自分が腹立たしい。
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司法の責任:法文解釈を歪めてまで建築行政をかばうのか
保険屋が見た「建築のプロ責任」(10)
今はどうしても、震災記事の方に目を奪われがちだが、日経アーキテクチュア2011年4月25日号では「確認検査機関への期待」という特集も組まれていた。読者アンケートの結果を基にした民間確認検査機関のランキングには、興味深いものがある。さらに、この特集の中の「品質で検査機関を決めよ」では、それこそ大震災の…
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建築士の責任:四半世紀前の設計・監理を理由に書類送検
保険屋が見た「建築のプロ責任」(9)
「妊婦転落で設計者を送検」と、日経アーキテクチュア2月10日号で報じられた。事件があったのは、1986年に建ったアパートで、警察署は、二級建築士を書類送検した。四半世紀という時間の経過、そして、業務遂行時の建築士の立場などを考え合わせたときに、建築士の責任の在り方について、改めて考えさせられる大きな…
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自治体の責任:津波の犠牲者を減らす復興を
保険屋が見た「建築のプロ責任」(8)
「津波が襲来します。早く高台へ避難してください。絶対に海には近づかないでください!」――。宮城県南三陸町で防災放送を担当していた遠藤未希さんは、町の防災対策庁舎の2階から、恐怖をこらえながら繰り返し、避難誘導のための放送を続けた。彼女の命懸けの放送によって、数多くの尊い命が救われたに違いない。
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国の責任:原子力保険のお寒い事情
保険屋が見た「建築のプロ責任」(7)
「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)が1961年に成立し、同時に「原子力損害補償制度」がスタートした。この法律では、原子力事業者には無過失責任と、無限責任が課せられていると理解されている。そして、この制度を支えている原子力保険の現在の支払い限度額は、1200億円と定められている。
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技術者の責任:原発に「想定外」は許されない
保険屋が見た「建築のプロ責任」(6)
日経アーキテクチュアの特集「壊れない都市」(2010年10月25日号)の中で、「街ぐるみで地震に備える動き」という、今にして思えば貴重なレポートが掲載されていた。改めて読み直してみたが、「建物単体では都市機能を守れない」、「進まぬ防災拠点の耐震化」など多くの重要な問題を提起している。
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建築主の責任:予見不能のリスクを負わない身勝手
保険屋が見た「建築のプロ責任」(5)
県の発注を受けた事業者が、ある建築士事務所との間で締結を求めた工事監理業務委託契約書(契約書)の内容について、目を通す機会があった。予想にたがわず、お役所相手の仕事の難しさを改めて知らされた。随所に発注者側の身勝手な姿勢が垣間見られ、憤りすら覚えた。
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地震国の責任:全面ガラス張りの高層ビルは無用
保険屋が見た「建築のプロ責任」(4)
2月22日にニュージーランドで直下型地震が起き、大きな被害が発生している。改めて地震の怖さを痛感するとともに、ガラスの雨が降り注ぐ凄惨な映像が脳裏によみがえってきた。
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外装剥落の責任:管理者が設計者に求償することも
保険屋が見た「建築のプロ責任」(3)
静岡県の施設「グランシップ」で、5年間に40件もの外装材の剥落事故が起きていたことを日経アーキテクチュアが2009年11月9日号で報じた。以来その責任を巡る議論に注目している。建築物の瑕疵について設計者や施工者に責任があれば、建物管理者が求償することもあるからだ。
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構造設計者の責任:適判という検算をなぜ避ける
保険屋が見た「建築のプロ責任」(2)
構造計算適合性判定制度の対象範囲についての見直し案などが論議されたが、「基準法の改正が、住宅着工の低迷を招いたので審査を見直すべきだ」とする建設業界側の意見が根底にある。業界側から導き出された適判制度見直し案は、改まらないその体質を象徴的に表していると感じた。
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建築主事の責任:「県に責任なし」で失われた確認の意味
保険屋が見た「建築のプロ責任」(1)
40年近く損害保険にかかわり、その過半を建築関連に費やしてきた中川孝昭氏(日事連サービス専務)。毎日のように建築事故の相談を受け、建築の専門家たちが主張する“プロ責任”に耳を傾ける一方で、社会からの期待との乖離を感じてきた。新コラム「保険屋が見た『建築のプロ責任』」では、中川氏が、建築専門家が負うべ…