人手不足を「3高」で打開できるか
人手不足を解消する何か有効な手段はないものであろうか。
日本経済新聞が8月12日付の朝刊から、「成長の誤算 人手不足」という連載をスタートさせた。その2回目に「『3高』で囲い込み」と題して、解決策は「高給、高齢者、高校生」にあると紹介していた。筆者好みの「笑点」流アプローチに、座布団を1枚進呈することにしよう。
高給を払うことの必要性については、需給バランスのもたらす経済原則の一面といえる。しかし、不景気が続いた建築設計業界、特に中小企業には、応えたくてもなかなか応えられない手法である。
筆者の手元に、日本建築士事務所協会連合会が実施したアンケート調査に基づく「会員建築士事務所の基礎的データ調査 報告書」がある。最新版は2009年のもので、9731事務所が協力した。それによると、法人化された一級建築士事務所の約50%は、社員数が4人以下である。
残念ながら弊社もそうであるが、中小企業が多くを占める建築士事務所にとって、社員の給与の話となった場合、現状はほとんど身動きの取れない世界なのではないだろうか。しかも、建築費の見積もりをつくる段階では、この人件費高騰の混乱の渦の中に、いや応なしに飲み込まれていくのだ。誠に心もとない状況である。
新聞の連載の1回目は、建設会社の「『求人難』型倒産」の話で始まる。東京都内の建設会社が中学校の建設工事を請け負っていたものの、下請け会社に支払う労務費が高騰。「下請け会社によって当初の見込みから最低でも3割、最高で2倍に膨らんだ」結果、資金繰りが悪化して経営破綻したという。
必ずしも高校生ではないが、若手の採用についても、信じ難いような逸話がある。
6月14日付の日本経済新聞には「人手不足経営」という連載が載っており、「専門職の奪い合い」がその日のテーマであった。
記事によると、埼玉県内の薬局の社長が、薬剤師の派遣を手掛ける会社に頼み込んだ。「来年の薬剤師試験に合格するような就職浪人を紹介してほしい」と。さらに、「(試験に合格するための)予備校の授業料に加え、本人に毎月18万円の小遣いをあげるから」という条件も出したという。
「青田刈り」などと言われたのは、遠い昔のことのように思っていたのだが、それよりもすさまじい話である。薬剤師の確保については、全国展開する大手の薬局でも苦戦を強いられているようだ。