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事故発生前でも不法行為責任が問われる

 屋内プールに限らず、天井の崩落事故は各地で繰り返し起こっている。安全に対する設計者や施工者の責任は増すばかりだ。

 ふと、最高裁が11年7月21日に下した判決に思いが及んだ。「放置すればいずれは居住者などの生命や財産に危険を及ぼす場合、建築物の基本的な安全性を損なう瑕疵(かし)に該当する」と判示。建物の瑕疵が現実的に危険を生じていなくても、設計者や工事監理者、施工者に対する不法行為責任が成立するとの判断を示したのである(関連記事:最高裁が欠陥に対する責任範囲を判断)。

 読者の皆さんにとって、将来にわたって極めて重要な判決である。「建築物の基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、建築物が居住者などの生命や財産に現実的な危険をもたらしている場合に限らない。瑕疵の性質によっては、これを放置するといずれはそうした危険が現実化することになる状態も含むと、最高裁が示したからだ。

 つまり、落下事故を起こす恐れがある仕様の天井には、安全性を欠く重大な瑕疵があるという主張が成立してしまうのである。現に天井が落下していなくとも、不法行為責任を問われてしまう可能性がある。

設計者がやり玉に

 ところで、今回のような事故の報道があると、同様の施設を抱える所有者や管理者は、自分のところの天井は大丈夫なのだろうかと心配になるのが世の常である。そして、たまたま事故を起こした天井と同じ仕様になっていたとしたら、設計者や施工者に対して「いかがなものか」とクレームがつくことも予想される。法廷で争うような事態となれば、この最高裁判決が威力を発揮することになる。

 困ったことに、現在進行形の屋内プールの建設工事についても、同様の法解釈が適用できると考えられる。安全確保のために仕様を変更するという話が持ち上がり、余分な費用が発生することになる。揚げ句の果てに「どうしてくれるんだ」と建築主から迫られるのである。施工者ばかりでなく、「そもそも当初の設計が悪い」と設計者がやり玉に挙げられることにもなりかねない。

 このまま計画を進めると危険な建築物の所有者になってしまうという意味では、法律上で厳格責任を負う建築主の問題でもある。そのリスクを回避するには、それなりのお金が掛かるのだと、設計者や施工者は開き直って建築主に逆襲する手があるかもしれない。しかし、「建築のことは素人なのでよく分からない。だから専門家に頼んだのだ」との常とう句でやり返されるのがオチだろう。