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 2008年3月から小田急電鉄の新型特急が東京メトロ千代田線に乗り入れる。これに先だち同社が10月19日、神奈川県相模原市の大野工場で、直通運転のために新造した「ロマンスカー・MSE(Multi Super Express)」(以下、MSE)を披露した。車両を設計したのは、建築家で神戸芸術工科大学教授の岡部憲明氏(岡部憲明アーキテクチャーネットワーク代表)。同氏のデザインをお伝えする。

 岡部氏は2005年3月に営業を開始した「ロマンスカー・VSE(Vault Super Express)」(以下、VSE)のデザインも手がけている。2度目となる今回、岡部氏が最も苦労した点は、先頭車両の流線形部分の設計だった。

 MSEは地下鉄に乗り入れるため、先頭車両の正面に非常用の貫通扉を設置しなければならない。完成した実物は、扉の存在を感じさせないほどすっきりと流線形におさまっていた。披露会では、外側にスライドする扉の開閉をデモンストレーションしていたが、やはり扉の向きや形が特殊なだけに自動ドアのようなスムーズさはなく、職員による手動のサポートが必要で少しぎこちない動きが気になった。

照明やスモークの演出とともに、ゆっくりと姿を現す新型ロマンスカー。報道陣から「きれいだね」と声があがった
照明やスモークの演出とともに、ゆっくりと姿を現す新型ロマンスカー。報道陣から「きれいだね」と声があがった

先頭車両。車体の色「フェルメール・ブルー」(17世紀のオランダの画家であるフェルメールが作品の中で使った青色)は、イメージしていたものより明るめのブルーだった。雲母を含み、メタリックな感じに仕上がっている
先頭車両。車体の色「フェルメール・ブルー」(17世紀のオランダの画家であるフェルメールが作品の中で使った青色)は、イメージしていたものより明るめのブルーだった。雲母を含み、メタリックな感じに仕上がっている

先頭車両の貫通扉を開いたところ
先頭車両の貫通扉を開いたところ

もう1編成と連結する側の先頭車両は非流線形。「“動物の目玉”のようになってしまうのを避けるため、大きな照明を付けたくなかった」と岡部氏
もう1編成と連結する側の先頭車両は非流線形。「“動物の目玉”のようになってしまうのを避けるため、大きな照明を付けたくなかった」と岡部氏

 外観の先進的で軽やかなイメージとは異なり、内装のデザインは昔の鉄道を連想させるノスタルジックな感じがする。客室内は深みのある赤い床や、濃いグレーの座席、木目調の座席背面など、温かみのある色使いだ。天井には電球色の蛍光灯を使った間接照明、荷棚の下には電球色のLED式直接照明があり、落ち着きのある雰囲気を演出している。岡部氏は「通勤で利用するビジネスパーソンにも、車内ではゆったりとした気分になってほしい」と話す。

 特に座席については、前後に座る乗客の動きに影響されないように工夫をした。前の乗客の頭がほとんど隠れるハイバックのシートを採用し、振動が伝わりやすい背テーブルやフットレストを付けなかった。ひじ掛け部分に内蔵した三角形のテーブルは弁当を広げるにはやや小さく感じるが、A4サイズのノートパソコンを支えられる形状と強度になっている。また、背もたれをリクライニングした状態やテーブルを出したままでも、座席を回転できる。平日のあわただしい通勤利用や、短い停車時間なども考慮した。

グレーの座席とワインレッドの床で落ち着いた雰囲気になっている。10両編成の場合、うち2両に車椅子用のスペースを設けている
グレーの座席とワインレッドの床で落ち着いた雰囲気になっている。10両編成の場合、うち2両に車椅子用のスペースを設けている

通路側の座席に腰掛けて室内を見回してみると、前席の背もたれの裏側に張った樹脂シートの木目調が視界に広がる
通路側の座席に腰掛けて室内を見回してみると、前席の背もたれの裏側に張った樹脂シートの木目調が視界に広がる

座席から天井を見上げる。天井は間接照明で直接光源が目に入らないので落ち着く。荷貨下はLED式直接照明。電球色ということもあり、写真ほどきつくない
座席から天井を見上げる。天井は間接照明で直接光源が目に入らないので落ち着く。荷棚の下はLED式直接照明。電球色ということもあり、写真ほどきつくない

メッシュの小物入れは中に入れるものが見えにくい。傘立て用のテープがついているのは便利だ
メッシュの小物入れは中に入れるものが見えにくい。傘立て用のテープがついているのは便利だ

ハイバックの座席。長さ2メートルのガラス窓を採用し視界がよい。視界を邪魔しないよう、カーテンの替わりにスクリーンとした。ガラス窓の中央にワイヤーを引いており、座席一列分のみのスクリーンを上げ下ろしできる
ハイバックの座席。長さ2メートルのガラス窓を採用し視界がよい。視界を邪魔しないよう、カーテンの替わりにスクリーンとした。ガラス窓の中央にワイヤーを引いており、座席一列分のみのスクリーンを上げ下ろしできる

三角形のひじテーブル
三角形のひじテーブル

 「鉄道は誰もが使うもので、公共性という点では建築に近い」と岡部氏。あらゆる世代にとっての居心地のよさを追究した結果として、客室の天井や、通路部分、化粧室、カフェなどは曲面を多用した設計になっているのが印象的だった。

 また乗降扉の内側の手すりや、運転席背面に真ちゅうを使い、空間のアクセントになっている。岡部氏は、「地下鉄では木質材料は使えない。真ちゅうは金属の中では手に触った感じがあたたかみがあるので採用した。運転席背面の装飾ついては、乗客から見える部分でもあり、鉄道の楽しさやノスタルジーを表現したかった」と説明する。

カフェの前の通路
カフェの前の通路

車椅子の乗客も利用できる多目的トイレはゆったりとしている。授乳台も設置している
車椅子の乗客も利用できる多目的トイレはゆったりとしている。授乳台も設置している

先頭車両の運転室。大きな窓で仕切り、客室からもよく室内を見られるようになっている
先頭車両の運転室。大きな窓で仕切り、客室からもよく室内を見られるようになっている

運転席裏側についた真ちゅうの上着かけ。乗客用の乗降口の手すりにも真ちゅうを使っている
運転席裏側についた真ちゅうの上着かけ。乗客用の乗降口の手すりにも真ちゅうを使っている

10月19日披露会に先だって行われた記者会見での握手。左から東京地下鉄代表の梅崎壽氏、岡部憲明氏、小田急電鉄代表の大須賀?彦氏
10月19日披露会に先だって行われた記者会見での握手。左から東京地下鉄代表の梅崎壽氏、岡部憲明氏、小田急電鉄代表の大須賀?彦氏

 MSEは、都心の地下鉄に乗り入れるため通勤特急という要素を伴う。平日は主にビジネスパーソンを大手町や霞ケ関に運ぶ。運賃のほかに必要な特急料金は、大手町・霞ケ関から町田までの場合、600円となる予定だ。小田急電鉄では、ロマンスカー本来の観光特急としての居住性や機能性を生かした新しいタイプのビジネス特急として、付加価値を提供していきたい考えだ。