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商空間の未来を切り開く、ものづくりのあり方を、第一線にいるデザイナーはどう見ているのか。店舗やホテルのインテリア、住宅のほか、家具・照明やアートなど幅広い分野で活躍するデザイナーの橋本夕紀夫氏を迎えて、建築・インテリア関連メーカー3社との座談会を開催した。そのセッションの模様をリポートする第1回目では、TOTOによるプレゼンテーションと質疑応答を採録する。


各社の取り組み──TOTOによるプレゼン


セッションの様子。右端が橋本氏(写真:飯塚 寛之)


半透明の高機能素材で、「静かなる存在感」を持つ水まわり製品をつくる

 海外旅行や、日本に進出する五つ星外資系ホテルで良いものに触れる機会が増えたことから、水まわり空間にこだわる人が目立ってきました。そうした層に向けて開発してきたTOTO NEW MATERIAL製品から、今年発売となる洗面ボウルと浴槽についてお話しします。

 これは「静かなる存在感」というコンセプトを掲げ、透過性を備えた、しっとりとした質感を持つルミニストという高機能素材を使った製品です。単品として主張しすぎず、デザインの行き届いた空間にぴったり納まるものとすることを狙いました。素材と光の相性が良いので、これを演出に生かすことも重視しています。

 「クリスタルボウル」(下の写真)のデザインコンセプトは、「人が水が触れ合う喜びを与えてくれる、純粋な『器』」。洗面ボウルとカウンターのつなぎ目をなくし、一枚の布を垂らしたような形状にしています。LED照明を仕込んであり、洗顔する時に光が迎えます。日本のおもてなしの心を、製品に吹き込もうと考えたものです。

 この洗面ボウルを大きくしていった格好になるのが「ルミニストバス」です。こちらは、真っさらな一枚の布に体を沈めたとき、自然にできるようなくぼみを再現した形状にしています。柔らかな光に包まれながら、新しい入浴感を得ることのできる浴槽を目指しました。

 半透明の素材を裏から照らしつつ、光のムラや機能パーツの影が出ないようにLEDを納めるといった、相反する課題を両立させることが必要でした。ルミニストの透明度を調節することを含めてバランスを探りながら、試行錯誤を重ねて完成させた製品です。


橋本氏とのQ&A


TOTO NEW MATERIAL製品の「クリスタルボウル」(写真:飯塚 寛之)


次の課題はプロダクトと空間のシームレス化

橋本  昨年、初めてこのNEW MATERIALの製品を見る機会があり、質感がすごくいいなと感じました。洗面ボウルや浴槽に限らずこうしたプロダクトは、人が使うところから発想しないとならない。だから触ったときの感触が大きなカギになる。その意味でこれらは、プロダクトの進んでいく新しい道を示しています。素材は樹脂ですか。

尾原 エポキシ系樹脂です。我々の開発する製品は、おしりや肌がじかに接するものなので、触れたときの気持ち良さにはこだわりがあります。

TOTO デザインセンター 第一デザイングループ デザイナーの尾原光哉氏(写真:飯塚 寛之)

橋本  一枚の布がくぼんでできたイメージということですが、それが十分伝わってくる。何よりも、なでてみたいと思わせますね(笑い)。人間の内側と外側は皮膚で閉ざされているように見えますが、実際は呼吸することなどによって通じ合っている。光に手をかざせば透けたように見えて、どこか透明感がある。そうした感じをこの素材から得られるところがいいですね。

 今回の製品がそうですが、ハイテクが進むと、より人間的なものに近付いていくと想像しています。今までの技術が生むものは、やはりものとしての存在感が強かった。今後は、新しい技術を使い、より人の五感に訴え掛ける製品が増えていくのではないか。そこで大切になるのが皮膚感覚だと思います。

 せっかくこうした質感を持つのだから、さらにプロダクトと空間のシームレス化を追求してはどうでしょうか。空間とのジョイント部分に、もう一歩踏み込んで提案できると、「静かなる存在感」というコンセプトが明快に生きてくるはずです。

五十嵐 こうした機器のデザインでは、まず周りのデザインを乱さないようにと考えますが、そうではなく、建築と合体する方向ということですか。

TOTO デザインセンター 第二デザイングループ グループリーダー TBC浴室デザイングループ グループリーダーの五十嵐健氏(写真:飯塚 寛之)

橋本 合体できるような、新しい納まり方の提案があるといい。“設置”するのではなく、空間とシームレスに“融合”していくようなことを実現できれば、かなり画期的ですよ。僕が経験した限りでは、そんなプロダクトにはいまだに出合っていない。

 気になるのは水栓金具で、まだスイッチがあるという感じです。センサーを使うなど、もっとこの素材の方に近付けるやり方があると思う。奇抜さを求めているのではなく、人ともののかかわりの中でより優しく、日常の中で触れたくなってしまうような気持ち良さを追求できるはず、ということです。

尾原 宿題にしたいと思います。飲食店やホテルでは、ときには水栓金具にもサプライズの要素が必要になると思いますが、こんなものがあるといいなといったアイデアをお持ちなのでしょうか。

橋本  たくさんあります。最近のプロダクトは、シンプルで根源的なデザインが求められる傾向にありますが、確かにエンターテインメントも必要です。以前、滝のような感じで水が流れ出る吐水口を、自分でデザインしました。空間のデザインと合わせて、その中で水をどう見せるかということを考えながらつくったものです。

 進歩すると何でも便利さに向かいがちですが、昔は毎日、井戸に水をくみに行っていたわけです。井戸のポンプを押すような感覚とか、便利じゃないものにもヒントはある。操作自体に意味とか豊かさとか、温かさを込めてテーマにするのも、一つの方法かもしれない。本来は単純なことで、好きになってくれる人が多いほどいいわけで、そこを難しく自分たちの視野だけで考えるとずれてしまう。ものを使う楽しさとは何かというところから探っていけば、違うアプローチが見えてくるはずです。


橋本夕紀夫氏プロフィル
はしもと ゆきお/1962年生まれ。86年愛知県立芸術大学デザイン学科卒業後、スーパーポテト入社。96年橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。過門香、水饗亭などのレストラン、相田みつを美術館、ザ・ペニンシュラ東京、ヒルトンニセコビレッジなどを手掛ける(写真:飯塚 寛之)


進行 山本恵久(日経アーキテクチュアプロデューサー)、平島寛(同発行人)

(第1回 終わり)