“商品”や“雰囲気”を大切にする商空間でもLEDの活用事例が増えている。LEDの光も多様になってきたからだ。白熱電球に匹敵する落ち着いた雰囲気が演出できるようになった。「商品を美しく見せる」ための演色性も向上している。LEDを活用した飲食店・物販店の照明手法を計6回に渡って連載する。
「くつ炉ぎ・うま酒 かこいや霞が関ビル店」(東京都千代田区)
環境に貢献するためLEDを導入
「くつ炉ぎ・うま酒 かこいや(以下、かこいや)」は、古民家の再生をコンセプトに掲げるチェーン店だ。 2003年の1号店(東京・新宿)を皮切りに、札幌、名古屋などに展開。09年4月に18番目の「霞が関ビル店」をオープンした。
同店は日本で初めてのオールLED照明の居酒屋として、08年度の環境省「省エネ照明デザインモデル事業」に採択された。同規模の施設と比べ、照明の電力使用量を約5分の1に削減できた。通常の光源であれば1万1076Wになるところを、すべてLEDにすることで2104Wになった。CO2排出量は約81%削減できたと試算している。
「かこいや」など飲食店約200店舗を展開するサッポロライオンは、CSRの一環として「省エネ照明デザインモデル事業」に応募を決めた。「最初はLEDの光は居酒屋に合わないという意見もあったが、環境貢献はグループ全体の方針でもあり、LED導入を決めた」とサッポロライオン経営企画室の西村礼佳氏は振り返る。
日本古来の光と影のバランス
実際に店内に入ってみると、どこにLED照明を使っているか分からないほど自然な雰囲気になっている。「かこいや」他店の常連客も霞が関ビル店のLED照明に気づく人はほとんどいないそうだ。設計を手掛けたミクプランニングの篠崎久氏は、LED照明の導入を機に「店内の明るさ」に対する考え方を見直した。一般的にダイニング照明の場合、客席の照度を下げても、入り口や通路のベース照明はかなり明るくする。しかし、今回は店の入り口から思い切って照度を落として陰影を出した。
既存のソケットをそのまま活用
照明は、天井に設置したレール式のLEDダウンライト(2.5W)117台が通路面や壁面を照らす構成になっている。光源にはいずれも既存のソケットを変更しないで代替できるLEDを使用した。既存の17店舗で展開してきた照明手法や配線関連の設備を活用することができ、その分コストも軽減できるメリットがある。ただし、代替のLED探しは苦労したという。
●従来型の照明を使用した店舗
電力使用量 | 従来光源を使用した「三田慶大前店」 の消費電力(霞が関ビル店と同規模) |
消費電力の内訳 | 消費電力 合計1万1076Wh/h (使用光源ごとの消費電力) ローボルトハロゲン12V50W×107 IL普通球40W×21 ミニクリプトン球40W×40 FHT42W×8 ダイクロハロゲン20W×7 FL40W×16 ミニクリプトン100W×5 IL普通球60W×1 ビーム球135W×2 CDM-T70W×2クリプトン60W×20 |
合計 1万1076Wh/h |
●LEDで消費電力が5分の1に
電力使用量 | LED照明を使用した 「かこいや霞が関ビル店」の消費電力 |
消費電力の内訳 | 消費電力 合計2103.5Wh/h (使用光源ごとの消費電力) LEDR2.5W×149 電球型蛍光ランプ24W×6 ReplacementBulb6W×7 ELG-01B-LED2.5W×22 PARATHOM-LED2.5W×28 ESOILミニLED16W+4W FHF32W×25 クリプトン100W×6 |
合計 2103.5Wh/h |
一般的にLEDランプはレンズを装着する構造になっているので、配光角が明確で光の指向性も高い。その特徴を生かして壁にスポットを当てたり、ペンダントの輝き感を表現したりすることも可能になる。光の色合いがLEDの課題の一つだが、「かこいや」では発光面にフィルターを付けることで暖色に近づけた。
LEDは照明設計の創意工夫が発揮できるチャンス。「かこいや」はLED照明を使って行灯のような「和の懐かしい明かり」を実現している。
[建物概要]
売場面積:201.37m2(客席、厨房)
発注・運営者:サッポロライオン
プロデュース:ミクプランニング
照明設計者:ミクプランニング(篠崎久)
設計協力者:ライトウェーブ(小野貴/器具開発協力、実験協力)
施工者:ミクプランニング(大迫尚太郎)
設計期間:2008年12月2日~09年2月12日
施工期間:2008年12月18日~09年2月12日
竣工:2009年3月18日
開業:2009年4月10日
[使用製品]
スポットライトエルパ(朝日電器)/ELG-01B-LED2.5W
三菱オスラム/PARATHOM-LED2.5W
<訂正>初出時に本文および表で照明の電力使用量を「1万1076kW」「2104kW」と記述しましたが、いずれも単位をkWからWに訂正しました。(2009年7月14日15時10分)