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日経アーキテクチュアが編集し、今秋発行したムック「Designers' vol.2」では、ユニークなプロセスによって店づくりを進めた飲食店の事例として、「六本木農園」を取り上げている。旧建物の内装を撤去した状態でオープンし、約2カ月間の土塗りワークショップを行って全体を仕上げたものだ。途中経過については、ケンプラッツ「200人が参加するワークショップで床と壁を土塗り/農業レストラン」(2009年7月28日付)で既報の通り。ここでは、ムック内で掲載した、土塗りの開始時と完了時とを比較した写真の一部、そして完成後の店舗の様子を紹介しよう。


 「農業実験レストラン」をコンセプトとする六本木農園の店舗の設計は、オンデザインパートナーズ(横浜市)の西田司氏と原崎寛明氏、鹿内健建築事務所(東京都豊島区)の鹿内健氏が担当し、土塗りについては、久住有生左官(東京都新宿区)の久住有生氏が指揮している。

 今年6月22日にプレオープンし、その後に、内装の床、壁、天井、および外装に対する土塗り左官工事や、しっくい塗装などの作業を開始。店内は当初、内装材がはがされ、コンクリートなどがむき出しの状態だった。一般参加者を募った土塗りワークショップと、専門の職人による仕上げを経て、8月20日にはグランドオープンに至っている。特に地下1階は、床、壁、天井のほか、バーカウンターやカウンターバックの棚など空間全体を土が覆い尽くし、1階でもテーブルトップにまで土を塗るなど、装いが一変した。

地下1階の壁面 左はプレオープン時。内装の壁をはがした状態で、コンクリートがむき出しのまま営業していた。壁面には工事の指示も書かれたままだ。バーカウンターの天板はスチール製(写真:鳥村 鋼一) 中央は土塗り作業中の様子。床は厚塗りの土で固められている。天井は職人が仕上げた(写真:以下2点はオンデザインパートナーズ) 右はワークショップで塗った土壁を、久住氏や職人が仕上げた状態。久住氏が「ピラミッドのイメージ」と語る壁は30~40mmの厚みで土が塗られ、溝を刻んでいる
地下1階の壁面 左はプレオープン時。内装の壁をはがした状態で、コンクリートがむき出しのまま営業していた。壁面には工事の指示も書かれたままだ。バーカウンターの天板はスチール製(写真:鳥村 鋼一) 中央は土塗り作業中の様子。床は厚塗りの土で固められている。天井は職人が仕上げた(写真:以下2点はオンデザインパートナーズ) 右はワークショップで塗った土壁を、久住氏や職人が仕上げた状態。久住氏が「ピラミッドのイメージ」と語る壁は30~40mmの厚みで土が塗られ、溝を刻んでいる

1階の床 左は土塗り前、プレオープン時。前の店舗の床をはがしたままでプレオープンした。コンクリートのスラブには、段差も残っている 中央はワークショップの様子。床に広げた土は石灰などを混ぜて硬化させている。化学反応を起こして熱を持つ土を、参加者がたたいて固めた。厚みは普通10~20mm程度にすることが多いが、ワークショップで50~60mmの厚みになった 右は完成した客席。腰壁から下に土、上にしっくいを塗った。作業を進めるなかで久住氏から提案があり、白塗装からしっくいに変更したという(写真:3点ともオンデザインパートナーズ)
1階の床 左は土塗り前、プレオープン時。前の店舗の床をはがしたままでプレオープンした。コンクリートのスラブには、段差も残っている 中央はワークショップの様子。床に広げた土は石灰などを混ぜて硬化させている。化学反応を起こして熱を持つ土を、参加者がたたいて固めた。厚みは普通10~20mm程度にすることが多いが、ワークショップで50~60mmの厚みになった 右は完成した客席。腰壁から下に土、上にしっくいを塗った。作業を進めるなかで久住氏から提案があり、白塗装からしっくいに変更したという(写真:3点ともオンデザインパートナーズ)

 久住氏は、最初に仕上げ方を決めるのではなく、現場の状況を見ながら材料の配合などをその場で調整し、それぞれの個所の仕上げを采配していった。土塗りの仕上げや材料を聞くと、「これはね、思い付き仕上げ。一つずつ仕上げは変わるから、決まった名前はない」という答えが返ってきた。

 ワークショップには設計者や運営者の予想を超える数の申し込みがあり、追加日程も設けた。参加の理由は、土に触ってみたかったから、久住氏に興味を持っているから、など様々だ。共通していたのは、誰もが夢中になっていたこと。休憩を忘れる参加者たちに、久住氏が休むように促す一幕もあった。参加者の一人は、「土塗りは初めて。無心になって塗った。六本木のこんな真ん中で、土に触れる機会があるのが面白いし、うれしい。職人の手が入ってどう仕上がるのかが楽しみ。また来たい」と話してくれた。

ワークショップ最終日、終了間際まで外壁の土を塗っていた。写真上の白い塗装との境い目を塗っているのが久住氏。外壁については耐候性が要るため、セメントを混ぜている。室内の土には着色していないが、セメントを入れると白い色が出てくるため、外壁の土には色を着けた(写真:ケンプラッツ)
ワークショップ最終日、終了間際まで外壁の土を塗っていた。写真上の白い塗装との境い目を塗っているのが久住氏。外壁については耐候性が要るため、セメントを混ぜている。室内の土には着色していないが、セメントを入れると白い色が出てくるため、外壁の土には色を着けた(写真:ケンプラッツ)

 設計者の西田氏は、こうした「つくるデザイン」「成長するデザイン」を意識することにより、店に愛着を持ってくれる人が増えることを期待したという。「建築家は普通、プロジェクトのなかでオーケストラの指揮者のような役割を果たすが、今回は演奏者の一人という位置付けでかかわった。あえて建築家が完成形を描かないデザインに挑戦した。かかわる人それぞれが一生懸命演じると、個々の違いが合わさって面白さが表れる」(同氏)。

 ワークショップ参加者は、この六本木農園の株主ならぬ“壁主”として登録される。この建物では、混ぜ物をせずに土を厚く塗っているため、質感を出せる半面、ひび割れやすくもなる。そこで、もし塗った壁が壊れたら、“緊急壁主総会”を開き、壁主が自分たちで修復するという。久住氏は、「職人が仕上げたところも、時間がたって壊れることがあれば自分たちで直してもらうのがいいと思う。補修して変わっていくのも、また面白い」と語る。

 以下の写真が、土塗りを終えた後の完成時の様子。なお、土塗りのプロセスのうち、「全景」「テーブル・手すり等」「地下1階 日干しレンガ」「1階 版築」については、ムック「Designers' vol.2」に掲載している。


上は地下1階のバー。久住氏は、地下を「ピラミッドのイメージ」で仕上げたと表現する。外階段から入り、通路を通って奥にあるカウンターは「棺のイメージ」だという。「空間内で、どこか締めるところが必要。ここではカウンターで締めている」(同氏)。淡路から送って来た土を、色を着けずに使用。ワークショップの参加者が仕上げた床と個室、職人が仕上げた壁や天井では技量の違いも表れ、様々な表情がある(写真:渡邊 和俊)
上は地下1階のバー。久住氏は、地下を「ピラミッドのイメージ」で仕上げたと表現する。外階段から入り、通路を通って奥にあるカウンターは「棺のイメージ」だという。「空間内で、どこか締めるところが必要。ここではカウンターで締めている」(同氏)。淡路から送って来た土を、色を着けずに使用。ワークショップの参加者が仕上げた床と個室、職人が仕上げた壁や天井では技量の違いも表れ、様々な表情がある(写真:渡邊 和俊)

地下1階の個室。左の壁面が、一般参加者がワークショップで仕上げた個所。この後、画家の淺井裕介氏が泥絵を描いている。右の壁面は、久住氏が仕上げた。床を含むワークショップで仕上げた個所とのバランスを考慮して仕上げた(写真:渡邊 和俊)
地下1階の個室。左の壁面が、一般参加者がワークショップで仕上げた個所。この後、画家の淺井裕介氏が泥絵を描いている。右の壁面は、久住氏が仕上げた。床を含むワークショップで仕上げた個所とのバランスを考慮して仕上げた(写真:渡邊 和俊)

地下1階の個室内を見る。ぐるりと囲む壁については、ワークショップで塗った土を後から職人が引っかき、模様を付けている。天井には岡安泉氏(岡安泉照明設計事務所)による特注のシャンデリア。「クリアアクリルを発光体とし、光源にはLEDを使っている。水晶の結晶がそこに偶然現れたような、特別な地下空間をイメージした」(岡安氏)(写真:渡邊 和俊)
地下1階の個室内を見る。ぐるりと囲む壁については、ワークショップで塗った土を後から職人が引っかき、模様を付けている。天井には岡安泉氏(岡安泉照明設計事務所)による特注のシャンデリア。「クリアアクリルを発光体とし、光源にはLEDを使っている。水晶の結晶がそこに偶然現れたような、特別な地下空間をイメージした」(岡安氏)(写真:渡邊 和俊)

地下1階、外階段からの入り口方向を見る。左側の壁面には、ワークショップ期間中に店の脇でつくった日干しレンガを積んでいる。150~200mmの厚みがある。奥に見える外部の壁面もワークショップで塗った部分(写真:渡邊 和俊)
地下1階、外階段からの入り口方向を見る。左側の壁面には、ワークショップ期間中に店の脇でつくった日干しレンガを積んでいる。150~200mmの厚みがある。奥に見える外部の壁面もワークショップで塗った部分(写真:渡邊 和俊)

1階客席、完成後の様子。腰壁より下には土、上には白いしっくいを塗った。久住氏の提案で白い塗料からしっくいに変更した。テーブルなどが当たりそうな強度の必要な個所にはセメントを混ぜている(写真:渡邊 和俊)
1階客席、完成後の様子。腰壁より下には土、上には白いしっくいを塗った。久住氏の提案で白い塗料からしっくいに変更した。テーブルなどが当たりそうな強度の必要な個所にはセメントを混ぜている(写真:渡邊 和俊)

1階エントランス展示カウンターと客席をつなぐ壁の版築部分。下から順に壁に沿って型枠をつくり、土を入れて突き固めることを繰り返すという手順でつくった。店の運営にかかわる農家からの土が、10箱以上届いた。それを見て、「それぞれの土を混ぜないで色の違いを見せ、ストライプ状の版築とした」と久住氏は語る(写真:渡邊 和俊)
1階エントランス展示カウンターと客席をつなぐ壁の版築部分。下から順に壁に沿って型枠をつくり、土を入れて突き固めることを繰り返すという手順でつくった。店の運営にかかわる農家からの土が、10箱以上届いた。それを見て、「それぞれの土を混ぜないで色の違いを見せ、ストライプ状の版築とした」と久住氏は語る(写真:渡邊 和俊)


六本木農園

 ・設計者/オンデザインパートナーズ(西田司)
 ・プロデュース/umari(古田秘馬)
 ・設計協力者/照明:岡安泉照明設計事務所(岡安泉)、設計: 鹿内健建築事務所(鹿内健)、左官ワークショップ:久住有生左官(久住有生)
 ・所在地/東京都港区六本木6-6-15
 ・業種/農業拠点、飲食
 ・業態/農業レストラン
 ・設計内容/内装、外装
 ・運営者/六本木農園+農家のこせがれネットワーク
 ・施工者/久住有生左官(久住有生)、伸栄(柳井伸治)
 ・面積/170m2
 ・客単価/5000円
 ・商品価格/六本木農園コース 3500円
 ・開業日/09年8月20日

仕上げ

 ・地下1階ラウンジ/床:たたき 、壁:土塗り(割れ土、かき落とし、日干し煉瓦積み) 、天井:土塗り、什器・家具:土の洗い出し、照明器具:制作照明(LED)
 ・1階ホール/床:たたき、壁:コテ押さえ・版築、天井:塗装、什器・家具:土の洗い出し
 ・外壁:土塗り

利用案内

 ・営業時間/18:30~23:30(LO22:00)
 ・定休日/日曜・祝日
 ・電話/03-3405-0684
 ・交通案内/東京メトロ・日比谷線六本木駅から徒歩2分