PR

 日経アーキテクチュアがこのほど発刊した『建築緑化入門』の中から関係者の「心に残る建築緑化」を紹介するこのシリーズ。最終回となる今回は、この本の編集担当者の心に残る建築、「シャルレビル」(1983年竣工)を紹介させていただく。2007年に亡くなった石井修氏が設計した神戸のオフィスビルだ。



 2001年に日経アーキテクチュアの特集「今こそ建物緑化」を担当して以来、編集部の“緑化番”になってしまった。自ら志願したわけではないので、「なってしまった」と書いたが、緑化した建物を見て回るのは嫌いではない。この10年で100件以上は見ただろうか。緑化に関する書籍づくりも今回で3冊目となる。飽きもせずにこのテーマを追い続けているのは、環境問題がどうのという以前に、「緑化」という行為が現代建築に欠けている何かを補完するように思えるからだ。

 前置きが長くなったが、筆者の心に残る緑化は、神戸・ポートアイランドにあるオフィスビル、「シャルレビル」だ。70年代から緑化に取り組んできた故・石井修氏(美建・設計事務所)の設計によって、1983年に完成した。

シャルレビルの東面。地上4階建ての屋上と地上からツタをはわしている。ツタは常緑のもの、落葉するものなど3種類を混植した。竣工時は鋼板がほぼむき出しの状態だった(写真:生田 将人)
シャルレビルの東面。地上4階建ての屋上と地上からツタをはわしている。ツタは常緑のもの、落葉するものなど3種類を混植した。竣工時は鋼板がほぼむき出しの状態だった(写真:生田 将人)

 シャルレビルは、大規模な壁面緑化の先駆けとも言える建物だ。それ以前にも外壁にツタをはわした建物は珍しくなかったが、ここでは円形の穴を開けた耐候性鋼板を壁の55cm外側に立て、地面と屋上の2方向からツタをはわせている。つまり、躯体と植栽層を切り離した。鋼板で覆われた四角い箱それ自体は現代建築特有の冷たさを感じさせるが、そこに緑が不規則に覆いかぶさることで、全体が柔らかな印象に一変する。

シャルレビルのオフィス内観。鋼板の穴(直径21cm)からツタの葉を透過して光が差し込む(写真:生田 将人)
シャルレビルのオフィス内観。鋼板の穴(直径21cm)からツタの葉を透過して光が差し込む(写真:生田 将人)

 さらに驚いたのは、オフィス内からの見え方だ。窓を覆う鋼板の穴から、ツタの葉を透過して柔らかな光が差し込む。何とも優しい気持ちにさせる空間だ。

 とかく現代建築は、一般の人から「とっつきにくい」と言われがちだ。石井修氏は、屋上緑化や壁面緑化に関心が集まるずっと前から、緑が建築に及ぼす効能を熟知していたに違いない。



 『建築緑化入門』の「ディテール秀作25選」では、石井修氏が晩年に手掛けた「森の工房AMA」を紹介している。2003年に広島市内に完成した知的障害者・精神障害者のための通所授産施設で、平屋建ての屋上730m2をブルーベリーの果樹園としている。

「森の工房AMA」を紹介する記事の冒頭部分(『建築緑化入門』より)
「森の工房AMA」を紹介する記事の冒頭部分(『建築緑化入門』より)

 屋上で収穫されたブルーベリーは建物内の食品工房でジャムに加工され、販売される。「AMAは障害者が安心して気持ち良く働ける環境づくりと、ブルーベリーの栽培を通して、植物との交流による障害者たちへの園芸療法的効果を期待するとともに、労働と生産の喜びをもたらしてくれているのではないかと考えている」。生前の石井氏はそう書いている。ここ数年、「屋上菜園」や「医療・福祉施設の屋上庭園」が注目され始めたが、石井氏は既に両者を結び付けて考え、これほど大きなスケールで実現していたのだ。その先見性に改めて驚かされる。

 屋上果樹園の詳細は『建築緑化入門』をご覧いただきたい。

建築緑化入門

建築緑化入門


定価:2,940円(税5%込み)

日経アーキテクチュア編

A4変型判、240ページ

ISBN:978-4-8222-6670-7

商品番号:184260

発行日:2009年10月29日

購入

宮沢洋(みやざわひろし):日経アーキテクチュア副編集長。1967年生まれ。90年日経BP社入社、日経アーキテクチュア編集部に配属。『実例に学ぶ屋上緑化』(2003年)、『実例に学ぶ屋上緑化2』(2006年)、『建築緑化入門』(2009年10月発刊)の編集を担当。著書に『昭和モダン建築巡礼 西日本編』『同東日本編』(いずれも磯達雄氏との共著)