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 近年、建築士の「専門家責任」を重視する傾向が強まっている。建築基準法の再改正を視野に入れる民主党政権は、厳罰化などを軸に検討を開始している模様だ。こうした状況下で、「専門家責任」を建築界全体の問題として認識しながら職務に対応することが、ますます重要になる。日経アーキテクチュア2009年11月9日号の法務欄では、構造計算書偽造事件の判例を基に、建築士の「専門家責任」について松浦基之弁護士が解説している。

 ケンプラッツ、日経アーキテクチュアでも報じた通り、名古屋地裁が2月24日、建築主事が行った建築確認に関する行政の国家賠償責任を初めて認めた。事件の経緯は以下のようなものだった。

 ビジネスホテル「センターワンホテル半田」の建設に当たって、原告である事業者は、経営コンサルタントの総合経営研究所(以下、総研)に経営指導を受けることとなった。01年秋には同社と経営指導契約、設計会社と設計監理業務委託契約、建設会社と建築請負契約を締結し、特定行政庁である愛知県の建築主事から建築確認を受け、建物の引き渡しを経て営業を開始していた。

 ところが、姉歯秀次元一級建築士によって不正な構造計算が行われたことが05年末に発覚。ホテル事業者は06年2月から建物の解体工事に着手して、ホテルを建て替えた。そして、愛知県と総研、同社の代表者の注意義務違反を主張。国家賠償法第1条1項と、民法上の不法行為に基づき、総額約5億1600万円の損害賠償を求めて提訴した。名古屋地裁は、被告の愛知県と総研に総額約5700万円を支払うように命じた。その後、両被告は控訴している。

 以前から、建築紛争の場での建築士などに対する責任追及の根拠として、「専門家責任」に関する議論はなされてきた。そもそも専門家とは、その資格を信頼して業務を依頼してきた相手方が受けた損害と、資格に基づく行為を信頼した第三者が受けた損害に対して責任を負うべきであるとされる。

 建築はとりわけ専門性が高い分野だ。専門家であるという面を考慮して、名義貸しの建築士に建物購入者に対する賠償責任を認めた判決もあり、冒頭で述べたとおり、建築士の専門家としての責任は重視される傾向にある。

 他方、建築主事の「専門家責任」を議論したものは見当たらない。しかし、建築主事も一級建築士の中から選ばれ、通常の一級建築士よりも高い専門性が求められている。建築基準法は、そのような建築主事に対する確認申請を建築主に義務付けている。従って、建築主が建築主事の職務に対して強い信頼を寄せるという関係が生じる。このため、建築主事を「専門家責任」の対象から除外する理由はない。名古屋地裁の判決は、このような観点から建築主事の「専門家責任」を肯定したものと思われる。