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 「コッ、コッ、コッ」。東京都新宿区のイベントスペースOZONEに、耳慣れない作業音が響く。音がするほうを見ると、ニッカボッカスタイルのいなせな大工2人が、「馬」と呼ばれる作業台に据えられた製材を相手に、黙々と作業をしている。

 これは、日経ホームビルダーと建築知識ビルダーズ(エクスナレッジ)が主催した「ニッポン男前大工コンテスト」の一場面。このイベントは、次代を担う確かな技能を持つ若手大工に焦点を当て、「男前」という切り口で投票による順位づけを行い、一般の人たちに広くアピールしようというものだ。住宅系雑誌8誌が連携する「hope&home」による「DO : SUMU? コレカラの家・暮らし」のイベントとして10月25日からOZONEで実施している。

鉋(かんな)を掛けているのが斉藤武尊さん。差し金を使って墨付けしているのが菅原直裕さん。普段の現場はニッカボッカでないことも多いそうだが、あえて大工らしいファッションで決めてくれた(写真:日経ホームビルダー)
鉋(かんな)を掛けているのが斉藤武尊さん。差し金を使って墨付けしているのが菅原直裕さん。普段の現場はニッカボッカでないことも多いそうだが、あえて大工らしいファッションで決めてくれた(写真:日経ホームビルダー)

 この日は手鉋(かんな)の実演と、手道具による蟻(あり)継ぎの加工の実演が行われた。最初は遠巻きに見ていた一般の来場者も、作業が熱を帯びるにつれ、少しずつ作業をしている大工に近付いて仕事内容を凝視していく。淡々とかつ要領よく作業する職人の姿は、見るものを引き付ける。手加工だと電動工具のような大きな音もしないので、作業を凝視していると、自然と呼吸が作業者に近付いていく。

 一般の人たちにとって、こうした作業を見かける機会はほとんどない。言うまでもなく構造材などの刻み作業の多くがプレカットに置き換わったからだ。こうした手道具による作業は造作の一部で行われるにすぎない。それでも、木材の素性を体感として知ることは、大工技能の根幹を成すことには変わりはない。そのため大工修行の入り口として、今でもこうした手道具の調整や手加工による基本的な仕事の訓練が行われることは少なくない。

 この日、鉋掛けの実演を行ったのは斉藤武尊さん。横浜市の工務店、あすなろ建築工房が推薦する23歳の若き職人だ。斉藤さんは一般社団法人大工育成塾で3年間基礎を学んだ後、実務経験を3年半積んだ若手のホープである。顔立ちはいまどきのイケメン風だが、ニッカボッカが板についたたたずまいが確かな実務経験を物語る。実際、まじめな仕事ぶりが建て主からも高い評価を受けているという。

 もう一人、蟻継ぎの仕口を刻むのが大工暦22年の菅原直裕さん。41歳と職人として油が乗ってきた棟梁だ。菅原さんは一級建築士の資格も持っている変わり種。こちらは東京都江戸川区の大和工務店の推薦である。日常の仕事で蟻を刻むことはほとんどないが、手慣れた様子で作業を進めていく。

 これらの作業は、あくまで基本的な仕事で特別な技能を有するものではないが、鉋くずの薄さや仕上げ面のきれいさ、そして少ない道具で立体的な仕口形状を短時間で完成させる工程は、一般の来場者に新鮮な驚きを与える。日常的に大工の仕事が見られる場所があれば、大工という職業への理解もずいぶん変わるはずだ。折しもリフォームの時代といわれる昨今。新築よりも建て主に身近な現場が増えてくる。そうした現場での「男前大工」の活躍が、今後の大工の在り方の鍵を握っているといえそうだ。

 「DO : SUMU? コレカラの家・暮らし」のイベント会場では、各工務店が推薦した10人の男前大工の写真を展示し、人気投票を行っている。11月5日には、「ニッポン男前大工コンテスト」の公開技術審査を行う。人気投票と合わせて、総合的な男前大工No.1が決まる予定だ。