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崩壊したCTVビルを南東上空から見る。北側にコアだけが残った(写真:ニュージーランド王立委員会)
崩壊したCTVビルを南東上空から見る。北側にコアだけが残った(写真:ニュージーランド王立委員会)
基準階伏せ図。北側にコアがあり、偏心した構造となっていた。コアのうち東側2つの壁と各階の床との結合力が不足。91年に山形鋼で補強した(資料:ニュージーランド王立委員会)
基準階伏せ図。北側にコアがあり、偏心した構造となっていた。コアのうち東側2つの壁と各階の床との結合力が不足。91年に山形鋼で補強した(資料:ニュージーランド王立委員会)

 構造設計者は、地震時に生じる建物のねじれ振動を考えずに計算した――。

 ニュージーランド政府の独立調査機関である王立委員会は、2011年2月に同国クライストチャーチ市近郊で起こった地震で崩壊したカンタベリーテレビジョン(CTV)ビルの最終報告書を12年12月10日に公表した。全ての柱梁接合部が脆弱だったうえ、北面に突き出たコアと各階の床とを適切に接合していなかった点など、ずさんな実態も明らかになった。

 地震による建物被害をまとめた報告書は全1100ページ以上。うち324ページをCTVビルに割いた。

 CTVビルは鉄筋コンクリート(RC)造の6階建てで1988年に完成した。地震時に周辺では水平方向に700ガル(cm/s2)、上下方向に800ガルの加速度を観測。建物はコアだけ残して全層が積み重なるように崩れ、日本人留学生を含む115人が死亡した。

 市の中心部で崩壊したRC造の建物は同ビルを含む2棟だけ。原因究明に関心が集まっていた。

 王立委員会はCTVビルの設計から建築確認、施工、その後の改修に至るまでの各段階で重大な欠陥があったと指摘した。まず設計では、南側に並んだ柱の変位量を過小に評価していた。さらに、コアと各階の床との結合力が当時の設計基準の半分にも満たなかった。

 CTVビルは北面のコアが地震時の水平力を主に負担する構造で、建物の重心と剛心が極端にずれていた。偏心量が大きいと、ねじれ振動が起こりやすい。ところが、構造設計者は偏心量の大きなビルを手掛けた経験がなく、変形や荷重を適切に見込んでいなかった。

南東側から見た被災前のCTVビル。直径40cmのRC円柱で自重を支えていた。地震後の調査で、円柱のせん断耐力を確保するスパイラル筋の不足なども判明した(写真:ニュージーランド王立委員会)
南東側から見た被災前のCTVビル。直径40cmのRC円柱で自重を支えていた。地震後の調査で、円柱のせん断耐力を確保するスパイラル筋の不足なども判明した(写真:ニュージーランド王立委員会)