大大阪(だいおおさか)時代――。大正から昭和初期にかけて、東洋一の商工地として栄えた大阪市がこう呼ばれた時代がある。当時に完成した歴史的建造物には、陳腐化しない“老いない古さ”がある。それを現代にアレンジして、資産価値を高めようとする事業が増えている。
大阪の代表的なオフィス街である淀屋橋。南北に伸びるメーンストリートの御堂筋から東に200mほど入った場所で、鉄筋コンクリート(RC)造の地下1階、地上13階建ての分譲マンション「グランサンクタス淀屋橋」の新築工事が最盛期を迎えている。設計はIAO竹田設計、施工は鹿島が担当。4月上旬に上棟する計画だ。
「ここで約100年前にできた建物の外壁を残したことは正解だった」。事業主であるオリックス不動産大阪住宅開発事業部の町山洋平氏は胸を張る。
敷地には、1918年に完成した旧大阪農工銀行のれんが造の建物があった。設計は東京駅丸の内駅舎などを手掛けた辰野金吾。その後、29年に建築家の国枝博が全面改修を手掛け、アラベスク文様のテラコッタタイルなどで覆われた外観となった。
戦後は繊維商社の本社屋として使われてきた土地と建物を、2010年にオリックス不動産が取得。当初は既存の建物を壊して更地にした後で、マンションを建てる計画だった。
しかし、周辺には大大阪時代を支えた近代建築が多く残る。事業費が1割以上高くなり販売価格にも影響するものの、古い外壁を生かした方が「他のマンションと差別化できる」(町山氏)と踏んだ。
予想は的中。総戸数60戸のうち、12年8月に第1期で販売した約45戸は即日完売した。残りも同年12月までに売り切った。歴史的な価値を受け継ぐマンションの外観が、多くの購入者に評価されたからだ。オリックス不動産によると、「近代建築の外壁を、新築する分譲マンションの外壁の一部として活用するのは、少なくとも関西で初めて」という。