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木下斉氏は、高校生時代から15年間、商店街などの活性化に携わってきた。その経験をもとに、まちの一定エリアを「会社」に見立て、経営の視点によって自立させる活動を事業化し、全国で展開中だ。2012年には、各地の「まち会社」(まちづくり会社)や商店街と共同で一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立し、現在は12都市で事業開発とノウハウの体系化に取り組んでいる。その活動にかける思いを聞いた。


木下斉(きのした・ひとし)氏。1982年東京生まれ。高校生時代に全国商店街による共同出資会社の初代社長に就任。その経験をもとに経営手法を用いるまちづくりを志し、2009年にエリア・イノベーション・アライアンス(AIA)設立。欧米・アジア各国との連携や政策提言なども積極的に推進する。2013年4月、建築プロデューサーの広瀬郁氏との共著『まちづくり:デッドライン~生きる場所を守り抜くための教科書』を日経BP社から発行している(写真:エリア・イノベーション・アライアンス)
木下斉(きのした・ひとし)氏。1982年東京生まれ。高校生時代に全国商店街による共同出資会社の初代社長に就任。その経験をもとに経営手法を用いるまちづくりを志し、2009年にエリア・イノベーション・アライアンス(AIA)設立。欧米・アジア各国との連携や政策提言なども積極的に推進する。2013年4月、建築プロデューサーの広瀬郁氏との共著『まちづくり:デッドライン~生きる場所を守り抜くための教科書』を日経BP社から発行している(写真:エリア・イノベーション・アライアンス)

 地方都市のまち、つまり中心部の商業集積地には「なくなる」「滅びる」というレベルまで衰退してしまったところも多い。人の気配がなく、ビルは残っていても使う人がいないのだから、実質は廃虚に近い。過疎の村がなくなると聞けばイメージできる人は多いと思うが、同じことが県庁所在地のような都市の中心部でも起こりつつある。

 中心市街地の衰退は、40年程の間に徐々に進行してきたものだ。しかし、もっと短期間で一気に廃虚のようになった場所もある。まちというのは油断すると、10~15年くらいの期間で滅ぶことがあり得るのだと認識する必要がある。

まちを守るために、お金と向き合わなければいけない

 地方都市のまちの衰退というのは、経済の問題にほかならない。事業者が存在し、利益を生み出すことができるまちでなければ投資が集まらず、地域でのお金の循環が起こらない。そのままでは新しい事業が生まれず、働く場所もできない。ますます人が寄り付かず、悪い連鎖に陥ってしまう。それなのに、これまでは「お金と向き合う」まちづくりが、あまりに少なかった。

 まちの人たちは必ずしも厳しい事態を直視していない。問題は、交付金や補助金に依存しがちな体質にある。稼がなくても“まちづくり”ができるようなシステムが出来上がってしまっているのだ。「みんなが納得するものにする」「みんなで力を合わせる」と言い、延々と計画を練り、延々とワークショップを続けているばかりで、「何をやるか」という結論に一向に至らない。あるいは、公的な支援資金を追い掛けてまちづくりに励むうちに、本業がおろそかになり、廃業してしまったという人もいる。交付金・補助金の存在が、地域の本来の力を奪う原因になりかねないわけだ。

 交付金や補助金を全く使うなとは言わない。しかし、それがストップしたらどうするのか。使うとしても臨時的なお金と位置付け、初期投資の軽減のためなどに限定する必要がある。その上で、地域経済を支える本来のお金の流れをつくっておかなければ、まちを守ることなどできない。

図1●AIAは、各地の中心市街地の不動産オーナーや商店街らとの共同出資による「まち会社」をつくり、事業型のまちづくりを推進する。現在、12都市のまち会社などと提携し、海外の団体との連携にも乗り出している(資料:エリア・イノベーション・アライアンス)
図1●AIAは、各地の中心市街地の不動産オーナーや商店街らとの共同出資による「まち会社」をつくり、事業型のまちづくりを推進する。現在、12都市のまち会社などと提携し、海外の団体との連携にも乗り出している(資料:エリア・イノベーション・アライアンス)

 立派な計画書をまとめても、巨額の補助金で建物をつくっても、何をやっても駄目というまちが多い。自分も試行錯誤の連続だった。補助金による事業も小さいものから大きいものまで学生時代から関わった経験があるが、全くうまく行かない。まちを一つの会社に見立て、お金の出入りを管理し、次の投資に回すサイクルを、できるだけスピーディーにつくる。当たり前の取り組みではあるのだが、これが15年間試行錯誤してたどり着いた確実な方法だ。海外では珍しい考え方ではなく、日本全国や海外にパートナーを拡充している今、手応えも感じている(図1)。これまでの方法を繰り返してもうまく行かないと痛切に感じている人が増えてきた結果だろう。

 そのときに、昔のまち全体を残そうというのは、もはや無理だ。小さな事業体としてスタートし、まちの魅力を生み出すための資金を自らつくり出す必要がある。死守するエリアを決め、「まち会社」をつくり、経営という観点で切り込んでいくしか方法はない。エリアを絞れと言われても困るかもしれないが、誰かが腹を決めて取り組まなければいけない。そこで生活を続けたいのであれば、今すぐに始めなければ間に合わない。その処方箋を、新著の『まちづくり:デッドライン』にまとめたつもりだ。

設計者も共通言語として「経営」を理解してほしい

 私たちの取り組みは業務改善などのソフト面から始まったが、最近は不動産運用のためにハード面の課題にも踏み込み、おのずと建築関係者との接点が増えている。

実践を前提とする人材養成プログラムなども全国で実施している。写真は「オガール紫波」(岩手県紫波町)でのブートキャンプの様子(写真:エリア・イノベーション・アライアンス)
実践を前提とする人材養成プログラムなども全国で実施している。写真は「オガール紫波」(岩手県紫波町)でのブートキャンプの様子(写真:エリア・イノベーション・アライアンス)

 建築を設計する人には、自分が関与している範囲の前後にあるものを、どれぐらい見通すことができるかが問われていると思う。多くの設計者は、クライアントから「5000万円の予算がある」と聞けば、ビルの建設や改修に全額を使い切る発想になりがちなのではないか。しかし、維持・管理や営業・販促を含めて運営時には、かなりのお金がかかる。そこに直接関わるかどうかは別にし、オーナー側にどのぐらいの資金を残しておいたほうがいいかなど投資回収のプランにまで気遣った仕事が求められている。それはオーナーや不動産会社の領分だと割り切る時代ではない。まちを再生するための建築をつくるときに、少なくとも自分は、そうした資質を設計者に期待している。

 「経営」で全てが解決するわけではないが、基礎知識を持っていて損はないはずだ。共通言語としてみんなが経営を意識し、その上で創造的な手段を実行していくのが望ましいと考えている。

木下斉氏、広瀬郁氏の共著を発売中です。

「幸せに向かうデザイン 共感とつながりで変えていく社会」

まちづくり:デッドライン 生きる場所を守り抜くための教科書


木下斉、広瀬郁 著

日経アーキテクチュア 編

A5判 240ページ

定価:1,995円(税込)

発行:2013年4月8日

商品番号:218990

ISBN:978-4-8222-7463-4

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