伝統木造の技法を現代の構造設計へ
設計を担当するのは、伝統木造建築の第一人者である木内修建築設計事務所代表取締役の木内修氏だ。木内氏は次のように話す。
「日本の伝統木造建築の技法は、通常の木造に適用される建築基準法に準拠したり、従来宮大工に伝わってきた技術にならったりするだけではその真価を発揮していない。まだまだ大きな可能性を秘めている」
建築基準法に従って木造建築を設計するには、一般に壁倍率や許容応力度等計算により弾性域(力と変形の関係が比例状態にある範囲)のみで耐震性を評価する。建築基準法に定められた変形角120分の1に達したらアウト、となる。
伝統木造建築の構造特性を理解して工夫すれば、変形角120分の1より変形しても耐力は落ちない、十分な余力があることを木内氏は以前からの調査・研究によって知っていた。
木内氏のこの考え方が制度上、実際の建築で使えるようになったのは、2000年の建築基準法の改正で性能規定による設計が可能になったからだ。その際、性能設計を行う場合には、耐震性能の検証は「限界耐力計算」によることも可能になった。これにより、伝統木造建築の潜在力を生かせるようになった。
限界耐力計算においては、弾性域のみならず塑性域(力と変形の関係が比例しない、外力を解除しても変形が元に戻らない変形域)における耐力をも耐震性として評価できることになる。これにより部材が相互にめり込み、部材(貫、ダボなど)が抜け落ちてしまわない限りは変形するほどに耐力が落ちず、むしろ微増する──塑性域における強い粘りを発揮する日本の伝統木造建築の構造特性が発揮できると木内氏は考えた。
ただしそれには、従来の宮大工に伝わってきた技術にならうだけではとても実現しない。めり込み耐力を100%生かす仕口を工夫し、大変形に至っても倒壊しない新しい架構体を考案しなければならない。さらに、それが性能規定をクリアする証拠を実証実験で示さなければならない。
木内氏は「過去の伝統木造史上使われてきた技法」をヒントに改良を加え、耐震要素として取り入れていった。それぞれの耐震構造要素は実大実験によって検証し、設計に盛り込んだ。
主な耐震構造要素は(1)足固貫(あしがためぬき)、(2)矩形長押(くけいなげし)の構造化、(3)耐力板壁、(4)水平構面の4点だ。