(4)水平構面
耐力板壁などの耐震要素の平面配置は、建築機能上の必要から必ずしも構造的に最適な配置とはならず、どうしても偏りのあるものになる。変形時は建物全体が並進すること、どの構造要素も同じ量の変形をするようになっていることが、限界耐力計算を使う大前提だ。
そこで、地震水平力に対して建物にねじれを生じさせずに、各耐震要素に耐力相当の水平力を流す役割を担う「水平構面」という構造要素を設けた。桁に構面板材を乗せる欠き込みを設け、天井裏全面に厚さ45mmのヒバ材を敷き込んである。前述の3つの耐震要素と違って、過去の事例によらない完全な現代のオリジナルの構造技術だ。
これらの耐震構造要素により、この建物は塑性域に達する大変形を起こしても倒壊しない。しかし、塑性域というのは外力を解除しても変形が元に戻らない変形域だ。いったん塑性域に達したら、もう建物はそのままでは使えなくなるのだろうか。木内氏に聞くと、そうならないようにしてあるのだという。
伝統木造建築の場合、各種実験データにより、安全限界変位は層間変形角で15分の1程度までと考えられている。しかし、この建物は安全限界変形角を30分の1程度に抑えて設計してある。
変形角を30分の1程度に抑えるようにすれば、これまでの多くの実験結果から変形は少しずつ戻っていくことが分かっている。損傷はダボやくさびといった小さな部材に見られる程度で、これらを新しい部材と取り替えることによって、耐力は回復して継続使用可能となる。
加えて大切なことは、これらの部材を取り替えやすく作っておくことだ。耐力板壁と取り合う柱の溝の複雑な加工も、取り替えやすさを考慮して考案したものだという。