PR

スキップフロアや大階段を使って全体を構成する保育園の建設が長野県で進んでいる。赤い大屋根の下に多様なオープンの空間をつくり、柔軟に使い分けることができる仕組みにした。そこでの空間体験を通じ、建物に対する子どもたちの思いが育つことを設計者は期待している。

 保育園の改築プロジェクトだ。

 計画地の長野県飯田市は、建築設計を担当した松島潤平氏の出身地で、周辺には河岸段丘が広がる。同氏が通った市内の小学校の隣には、建築家の原広司氏が手掛けた飯田市美術博物館が建っている。そうした自然環境や建築物のいずれもが松島氏にとっての原風景で、今回のプロジェクトにも影響しているという。

 敷地は神社からの借地で、境内の森の中にある。約40年前に開設した園舎は鉄骨造、2階建ての建物だった。増築を重ね、かつ老朽化が進んだことから、既存の建物は残さずに改築工事を行うことになった。

 松島氏の父親は地元で建築設計事務所を経営し、母親は幼稚園の教諭を務めている。地元のつながりがあるため、特命で設計の依頼が来た。松島氏は東京を拠点としており、地元の桂建築設計事務所とのJVで設計を進めた。

 発注者からの要望は第一に、シンボルになっている既存の園舎の赤い屋根を継承してほしい。次に、園舎と園庭の距離を縮め、自由に走り回ることができるようにしてほしい。そして、空間に可変性を持たせてほしい──という3点だった。

 第一の要望に対しては、「大屋根をつくってシンボリックな建物にした。真っ赤にすると周囲の森に合わないので、彩度を抑えたムラのあるコールテン鋼(耐候性鋼)の見掛けに近いガルバリウム鋼板(アルミ・亜鉛合金めっき鋼板)を使用することにした。森の緑にも、むらがあり、表情がある。それに対し、できるだけなじませるようにした」(松島氏)。

完成予想パース。南西側にある園庭から見る。大屋根にしたのは、シンボリックな建物にすると同時に、森の中で落ち葉が多いからでもある。その対策として複雑な形態にはせず、樋のない大屋根とする必要があった(資料:松島潤平建築設計事務所)
完成予想パース。南西側にある園庭から見る。大屋根にしたのは、シンボリックな建物にすると同時に、森の中で落ち葉が多いからでもある。その対策として複雑な形態にはせず、樋のない大屋根とする必要があった(資料:松島潤平建築設計事務所)

既存の園舎は2階建てで、1階を年少と未満児、2階を年中と年長の児童が使っていた。敷地自体は狭いのだが、増築を重ねた空間に使い方を合わせていたので園庭との距離感があり、外に出にくい建物になってしまっていた。そこで行き止まりのないサーキュレーション動線をつくり、さらに園庭から見て右側に位置する職員室などの上部に半屋外の大階段(アリーナ)を設け、不足ぎみの園庭の面積を補った。週末などの地域利用のために、2階「年少教室B」を可動棚で区切り、完結した使い方ができるように計画している(資料:松島潤平建築設計事務所)
既存の園舎は2階建てで、1階を年少と未満児、2階を年中と年長の児童が使っていた。敷地自体は狭いのだが、増築を重ねた空間に使い方を合わせていたので園庭との距離感があり、外に出にくい建物になってしまっていた。そこで行き止まりのないサーキュレーション動線をつくり、さらに園庭から見て右側に位置する職員室などの上部に半屋外の大階段(アリーナ)を設け、不足ぎみの園庭の面積を補った。週末などの地域利用のために、2階「年少教室B」を可動棚で区切り、完結した使い方ができるように計画している(資料:松島潤平建築設計事務所)

 次の要望に対しては、河岸段丘という地形を意識したという。今回の改築では、敷地の北東側に建物、南西側に園庭を配置している。「狭い敷地なので、園庭の余地を残すためには2階建てにしなければならない。その構成のなかに収めようとすると奥行きのある建物になる。室内と園庭の間の距離感を縮めるために4層のスキップフロアにした」(松島氏)。

2階西側を見る。2階から、さらに1200mm上がるフロアを部分的に設け、ステージとして利用することで催し物などの活動にも対応する。1階はコルクタイル、2階はフローリング、2.5階はラーチ合板といったように、フロアの高さごとに内装のテクスチュアを変える計画としている。天井には木目のクロスを張っている。可動棚を用いて子どもの目の高さで仕切り、管理する側は一体で見ることができるようにしている(資料:松島潤平建築設計事務所)
2階西側を見る。2階から、さらに1200mm上がるフロアを部分的に設け、ステージとして利用することで催し物などの活動にも対応する。1階はコルクタイル、2階はフローリング、2.5階はラーチ合板といったように、フロアの高さごとに内装のテクスチュアを変える計画としている。天井には木目のクロスを張っている。可動棚を用いて子どもの目の高さで仕切り、管理する側は一体で見ることができるようにしている(資料:松島潤平建築設計事務所)

2階東側を見る。2階の教室B群は図画工作や本を読む座学活動に用いる。可動棚によって年少、年中、年長の各スペースを自由に伸縮することができ、一体化してランチスペースとしても利用する。随所にトップライトを開け、時間帯によって落ちてくる光が変わるようにしている。棚板のグリッドについては、子どもの体では足を掛けて昇ることができない寸法とするなど、安全面に配慮している(資料:松島潤平建築設計事務所)
2階東側を見る。2階の教室B群は図画工作や本を読む座学活動に用いる。可動棚によって年少、年中、年長の各スペースを自由に伸縮することができ、一体化してランチスペースとしても利用する。随所にトップライトを開け、時間帯によって落ちてくる光が変わるようにしている。棚板のグリッドについては、子どもの体では足を掛けて昇ることができない寸法とするなど、安全面に配慮している(資料:松島潤平建築設計事務所)

全体構成図。限られた敷地面積のため、条件のよい南側に全ての部屋を並べることができない。これを逆手に取り、スキップフロア構成によって積極的に環境条件の違うスペースを設け、それらが多様につながり合う空間をつくっている。敷地北東側の地盤レベルが低いことを利用し、0.5階、1階、2階、2.5階という4層のスキップフロアの構成とし、年少、年中、年長それぞれに対してメゾネット形式の空間を用意している。昼寝などに適した静かで閉じた部屋と、南西側の園庭に面した活動的な部屋を分けている(資料:松島潤平建築設計事務所)
全体構成図。限られた敷地面積のため、条件のよい南側に全ての部屋を並べることができない。これを逆手に取り、スキップフロア構成によって積極的に環境条件の違うスペースを設け、それらが多様につながり合う空間をつくっている。敷地北東側の地盤レベルが低いことを利用し、0.5階、1階、2階、2.5階という4層のスキップフロアの構成とし、年少、年中、年長それぞれに対してメゾネット形式の空間を用意している。昼寝などに適した静かで閉じた部屋と、南西側の園庭に面した活動的な部屋を分けている(資料:松島潤平建築設計事務所)