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視点4 施設によって正解も違ってくる

 フロアごとに、内装に使用している色を変えている施設があります。入居者や介護スタッフによって、フロアの違いをわかりやすく認識できる上手な工夫です。ただ、認知症の方がエレベーターを利用する際に、パニックの原因になる可能性があります。

 ある高齢者施設の運営者から聞いたのですが、認知症の人のなかには景色が突然、変わるとパニックになる人がいるそうです。例えば、エレベーターを降りて出たときの景色が乗る前と違っていたら急に不安を覚えてしまう。どこかタイムスリップしたような感覚なのかもしれません。その施設では、認知症の入居者をエレベーターではなく階段で誘導していました。

 どちらの対応が正しいとか、間違っているとかの問題ではありません。施設によって、取るべき選択や正解が違ってくるのです。大切なのは、考えをめぐらし、深い思想の下に設計内容や設備を選択してているかどうかなのです。

 例えば、部屋にトイレを作るべきかどうか。もちろん、あった方がいいでしょう。ただ、重介護の入居者が多い施設ではトイレを部屋に設けないという選択もあり得ます。うまく清掃できなければ、朝まで部屋ににおいが残ります。知らないうちにトイレで倒れているかもしれない。であれば、共用のトイレに出てきてもらった方が事故に対応しやすいという判断もあります。

 手すりにしてもそうです。手すりは様々な使われ方をします。手すりにつかまりながら歩く人。ひじを手すりに乗せて滑らせるように動く人。車椅子に乗ったまま手すりを身体に引き付けるようにして進む人。どんな入居者が多いかによって、手すりの形状も変わります。自立した健常者が多い高齢者施設では、少し出っ張った棚のようにするなど、手すりらしく見えないようにした方がいいケースもあります。

 徘徊防止にもいろいろな対策があるでしょう。どのような人が入居するかを考えて、どういう対策を採るのか、設計者と施設運営者とですり合わせしてください。入居者やその家族に対して、「こういう考えの下に設計した」ときちんと説明できるかどうかも大事です。「そこまで考え抜かれているのか」と納得できれば、子どもは安心して親を託すことができるでしょう。