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<再現図面の講評>

 さて、前回の記事「2013一級建築士製図試験を再現図面で分析」 で、ご紹介した2枚の再現図面を再び掲載して、その合否結果とともに再講評を試みます。

<図面A>

図面
※画像をクリックするとPDFファイルが開きます。

 皆さんなら、この図面をどのように評価するのでしょうか。結果はランク3でした。

 評価が分かれると考えられる点として前回の記事で指摘したうちの3点について、合否結果を踏まえて再び見てみましょう。

1)1階共用部エントランスホールの自然景観の取り込み方を含むプランの意図が不明快

 エントランスホールについては、問題文で指示された「1階と2階の空間の連続性を考慮した吹抜け」の計画については応えているものの、「周囲の自然景観を取り入れる」ことについては多少読み取りづらい計画となっています。エントランスホールの東北奥に1スパン分の大きな開口を設けて屋外テラス越しに東側の樹林を眺められる計画とはしているものの、風除室を入った位置からはエレベーターに隠れてその開口を見ることができません。エレベーターの位置を同じグリッド内の東側壁面に寄せるだけも、エントランスホールから敷地東側の樹林を眺められる計画であることがはるかに明快になるのですが、この再現図面のままでは、エレベーター裏、つまり食堂前の1グリッド分がエントランスホールには含まれないと判断され減点を招いている可能性を否定できません。

2)1階の共用部と研修部門のゾーニングが曖昧

 前回の記事では、この答案の最も弱い部分として、研修部門と共用部門のゾーニングが曖昧であることを指摘しました。

 すなわち、セミナー室A、B、Cの奥に「ホール」と名付けた空間を設け、そのホールを囲んだセミナー室群をひとつのまとまりとして、エントランスホールから穏やかに分離しようする意図が感じられる計画となっています。しかし一方で、研修部門の室であるアトリエや和室はエントランスホールからアクセスする計画であり、食堂やエントランスホールから研修部門のホール奥にある便所を利用する計画となっています。つまり、研修部門と共用部門を分離しようと意図したにしては不十分な分離しか実現し得ておらず、逆に研修部門と共用部門を一体的なものにしようとしたにしては一体感が十分ではない計画に見えるという、いかにも中途半端な印象の構成となっています。

 ケンプラッツで同時に公開した記事、「傾向」読み取れるも依然不明な「合格レベル」の中の再現図面に実例がありますが、今年の試験では共用部門と研修部門のゾーニングや動線処理については多少曖昧であっても合格し得たようで、研修部門の廊下とエントランスホールをまったく共用する計画も少なくはありません。こうした例に従うなら、この答案は、エントランスホールの吹抜け形状とともに1階、2階の主階段と便所の計画を見直すことで、エントランスホールを介して研修部門諸室にアクセスし、かつ2階の宿泊部門の共用空間とも強い一体感の感じられる計画とした方が、合格可能性の高い答案となったのではないでしょうか。

 ただし、ゾーニングは「採点のポイント」に挙げられている項目であり採点対象とされたことは明らかですが、どのような計画であれば減点されたのか、あるいは減点されなかったのか、その判断の基準や方針は明らかにはされていません。従って、合否判定の結果を見た上での意見として「この答案のような共用部と研修部門のゾーニング処理は不適切と判断されたのかも知れない」と言えるのみであり、上記の指摘も「合否結果を見た上での意見」の域を出るものではありません。

3)アトリエの屋根のかけ方が不明

 当たり前のことですが、屋根伏図も立面図もないまま、平面図と1面の断面図だけで屋根形状のすべてを把握しようとするのは無理があります。ですが、要求された図面だけからでも屋根形状を含めて建物全体の形状が把握できる答案がある一方で、屋根のかけ方が不明な部分のある答案や屋根のかけ方への配慮が行き届いてはいないように見受けられる計画を示した答案が数多く存在しました。この図面もそのひとつで、アトリエ部分の屋根形状が切妻なのか片流れなのか、はたまたこの部分だけは陸屋根なのか、図面から特定することはできません。

 断面図の特記には「建物物の全体の立体構成および勾配屋根の形状がわかる」と指示されていますから、一部の屋根形状が不明となってしまっては十分な答案とは言えないでしょう。とはいえ、そのような答案図面の数の多さも考え合わせると、大きな減点となったとは思えません。

 以上の他にも、前回の記事では指摘していませんが気になる点がいくつかあります。例えば、2階梁伏図(再現図面に記入された図面名は単に「梁伏図」なっていますが)では、アトリエ部分に「上部G2(PC梁)」と符号が付され2階床レベルでは梁を抜いているかのような曖昧な表記となっていることに加え、吹抜け記号を描き忘れているため2階平面図と整合しない図となっています。また、2階平面では宿泊室A-1の入り口周りの廊下幅員が不十分と判断されそうな危うさがあります。隣接するサブ階段を3m×4mの大きさの中に納めてしまえば、南側の廊下と同じ形状の計画となっただけに、惜しいと感じる部分です。

 こうした事項は、答案の作成プロセスを振り返る上では「わずかな忘れもの、ちょっとしたミス、ほんの少し詰めが甘い」といった「ほころび」程度の欠点ですが、採点評価の上では集積されて無視できぬ大きな減点値になってしまうのでしょう。しかし、10年以上にわたる再現図面の収集を通じて、「小さな減点」が積み上がって不合格となる例を数多く見て来ましたが、それらのほとんどはランク2の評価であり、この答案のようにランク3と判定された例は多くはありません。ランク3と判定された再現図面には、「わずかなミス」と済ますわけにはいかない「大きなミスや明らかな欠点」が何らか含まれていることが多いものです。この答案も、指摘した事項のいずれか、あるいは我々には見出せていない何かが、「大きなミスや明らかな欠点」と判定され大きな減点を招いているのでしょう。