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<図面J>

図面
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 この答案は、数少ないフリーハンドで描かれた図面でした。前回の記事で指摘した点を、順に再び確認していきましょう。

1)エントランスホールにおける「周辺の自然景観の取り込み」

 200m2を越える広いエントランスホールは、中央に吹抜けおよびトップライトが設けられていますが、玄関風除室を除いて外部に向かう開口部はなく、周辺の自然景観を取り込むことに十分とは言い難い計画です。

2)セミナー室Bの形状

 セミナー室Bは、3m×10mと非常に細長い平面形状で計画されており、面積的には十分な広さとはいえ極めて使いにくい室となってしまっています。何らかの減点と判断されても不思議はないでしょう。また、セミナー室A、C、和室、そしてアトリエと研修部門の各室を眺めると、この答案も諸室の隔てる界壁の多くが柱梁のグリッドに合致していません。

 便所を含めてこれら研修部門の諸室全体の面積ボリュームとしては十分な大きさを確保できているようですから、もう少し時間をかけて検討すれば、より良い平面計画となったはずです。これもまた、制限時間内でまとめ切らなくてはならない試験の怖さなのでしょう。

 なおくり返しになりますが、構造グリッドに沿っていない平面計画については、如何に熟度の足らない印象がしようとも減点の対象となっているかどうか定かではなく、今年の合否結果を見る限りはせいぜい「ごくわずかの減点」程度に過ぎないという感がします。

3)宿泊室Cが西向き

 2階は宿泊部門だけで構成されたツインコリドー型の平面ですが、エントランスホール上部の吹抜けを囲んで主階段・EVと談話コーナー、そしてサブ階段にリネン庫などをコアとして平面中央に納め、全宿泊室および浴室を外壁に沿って配しており、よくまとまった計画となっています。

 気になるのは宿泊室Cが西向きに計画されていることですが、他の答案の講評でも指摘したとおり、景観や眺望に劣ると考えられる西向きに宿泊室を配することは最善ではないものの、問題文にはその要求は示されておらず、この点についての減点があったとしてもわずかなものと考えられます。

4)勾配屋根を活かしているとは言い難い内部空間

 「計画に当たっての留意事項」として「勾配屋根の形状を活かした内部空間とする」ことが求められましたが、さてどのような内部空間となっていれば勾配屋根の形状を活かしたことになるのか、その定義を精緻に示すことは容易ではありません。最も素朴で単純に応えるとするなら「屋根勾配に沿って勾配天井とする」などということになるのでしょう。もちろん、これだけが唯一というわけではなく実に様々な対応があり、それを網羅することはほぼ不可能と思われ、建築設計というのは本来そういうものです。

 さて、この答案図面に示された計画ですが、断面図に示されたエントランスホールおよびその吹抜け、そして吹抜けを囲む2階廊下などの空間は、深い井戸の底から覗き上げるような高い位置にトップライトがあることでわずかに「屋根が高い」ことを感じ取ることができそうなものの、「勾配屋根の形状を活かした内部空間である」と言い切るには少々苦しさのある計画となっています。つまりは、相応の減点は仕方ないと言えそうです。

 ところが、この断面図には、「アトリエ天井」と注記された点線が表記され、屋根勾配と平行な勾配天井であることが示されています。もっとも、アトリエ部分の屋根形状がどのようなものなのかは図面のどこにも表記されていませんから、アトリエの天井が「勾配屋根の形状を活かした」ものなのかどうかは定かではありません。とはいえ、とにかく「勾配天井」が計画されています。

 「勾配屋根の形状を活かした内部空間」に関して、おそらくこの答案は減点とはならないと思われます。

 この答案は、ランク1(合格)と判定されました。

 ところで、前回の記事では触れませんでしたが、1階のゾーニングについて補足しておきます。他に類似の考え方とした答案が少なくないのですが、この答案は研修部門と共用部門のゾーニングが曖昧で、共用部門であるエントランスホールを介して研修部門の諸室を行き来する計画となっています。一方、管理部門については、共用部門および研修部門からしっかりと分離させた計画となっています。

 問題文では、管理部門と共用部門を合わせた「管理・共用部門」という表記になっていましたが、「適切なゾーニング」として求められたのは、「管理・共用部門」ではなく「管理部門」を他の部門から分離することであり、共用部門と研修部門についてはむしろ一体的であってもかまわないという評価方針が感じ取れます。

 そして、この評価方針は、問題文に明示されている「セミナー室A・B・C、アトリエ、和室、エントランスホール及び食堂については、地域住民との交流の場となるように配慮する。」といった指示に呼応して設けられたものであろうと考えられます。

曽根 徹(ぞね とおる/ハンドルネーム:zone)
1962年三重県生まれ。神戸大学大学院工学研究科修士課程修了。電鉄会社、RPBW、設計事務所、専門学校非常勤講師、都市計画コンサルタント、マーケティングコンサルタントを経て、独立。2000年よりメールマガジンを配信し、2001年に一級建築士製図試験支援サイトとして 学科製図.com を設立。現在、有限会社I.L.D.代表取締役として、ウェブコンサルティングやプロデュースを行いつつ、各種NPO理事を兼任。著作に「エスキースアプローチ」「エスキースFAQ」「わかるエスキース」(いずれも学芸出版社刊)などがある

中村 和也(なかむら かずや/ハンドルネーム:kaz)
1958年愛媛県生まれ。京都工芸繊維大学大学院工芸学研究科修士課程修了。航空測量会社都市計画コンサルタント部門、グラフィックデザイン会社、短期大学生活科学科非常勤講師を経て1992年よりアトリエ・クロワートルを主宰。中世ロマネスクの修道院建築遺構探訪を趣味とし、Alfa Romeoで の疾走を生き甲斐とする