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壁倍率の評価には上限がある

 河合さんがまず説明したのは、建築基準法では耐力壁として使用できる倍率の上限を定めていることだ。壁量計算する場合は5、許容応力度計算など構造計算する場合は7。大臣認定で得られる倍率も同様だ。耐震診断法にも耐力壁の上限があり、一般診断法が10kN、精密診断法が14kNになる(下の表参照)。つまり、耐力壁を複数重ねても、得られる評価は5もしくは7までとなる。

構造計算で認められている耐力壁の最大値
構造計算で認められている耐力壁の最大値

 倍率に上限を設けている理由について河合さんは、「耐力壁を強くし過ぎると、大きな引き抜き力が柱脚に生じて接合部を破壊する、偏心しやすくなるなど、想定外の壊れ方をする恐れがあるから」と説明する。実際、倍率5を超えるように耐力壁を組み合わせた実験では、合計した倍率並みの強度を発揮できないことがあるという。

 次に河合さんが着目したのは耐力壁の接合部だ。この事例はもともと、Aの倍率で接合部の引き抜き力を計算して仕様を決めていたが、実際にはBの倍率で引き抜き力が掛かる。下の図に記した赤字はBでN値計算した接合強度、黒字はAで算出した接合強度だ。ほとんどの箇所で赤字が黒字を上回り、その差も20kN以上が複数ある。

壁倍率に基づく接合強度。接合強度は構造システムの耐震診断ソフト「HOUSE-DOC」を使い、N値計算法で算出した(資料:金井工務店の資料を基に日経ホームビルダーが作成)
壁倍率に基づく接合強度。接合強度は構造システムの耐震診断ソフト「HOUSE-DOC」を使い、N値計算法で算出した(資料:金井工務店の資料を基に日経ホームビルダーが作成)

 接合強度が不足している場合は、耐力壁より先に接合部が壊れる危険性がある。接合部が先に壊れると、耐力壁が備える粘り強さを発揮できず、耐力を一気に失いやすくなる。下に示した荷重変形曲線のグラフがそのイメージだ。

耐力壁の強度低下のイメージ。接合部が先に壊れると、耐力壁が備える粘り強さを発揮できず、耐力を一気に失いやすくなる(資料:河合直人さんへの取材を基に日経ホームビルダーが作成)
耐力壁の強度低下のイメージ。接合部が先に壊れると、耐力壁が備える粘り強さを発揮できず、耐力を一気に失いやすくなる(資料:河合直人さんへの取材を基に日経ホームビルダーが作成)

 また、下に示したのは、高い倍率の耐力壁を使用して接合部が先に壊れた例だ。

高い倍率の耐力壁を使用して接合部が先に壊れた試験体の例。45×90mmのたすき掛け筋かいと構造用合板を組み合わせた実際の壁倍率が6.5の耐力壁に、15kN用のホールダウン金物で柱頭、柱脚を固定した。最大荷重は19.5kNだったが、壁より柱脚が先に壊れた(写真:ものつくり大学 小野泰)
高い倍率の耐力壁を使用して接合部が先に壊れた試験体の例。45×90mmのたすき掛け筋かいと構造用合板を組み合わせた実際の壁倍率が6.5の耐力壁に、15kN用のホールダウン金物で柱頭、柱脚を固定した。最大荷重は19.5kNだったが、壁より柱脚が先に壊れた(写真:ものつくり大学 小野泰)

 「建基法には記されていないが、壁量計算でも構造計算でも、仕様に盛り込まれた実際の外壁や間仕切り壁の倍率で、引き抜き力を計算して、接合部の仕様を決めるのが望ましい」と河合さんは話す。

 壁倍率に基づく接合強度を示した図を見ると、赤字のなかには30kNを超える箇所がある。それに見合う大掛かりな接合金物を使うより、標準的な接合金物で賄える倍率の耐力壁にする方が現実的だ。