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槇文彦氏の提言を全文掲載

(以下、原文のまま)

ポストオリンピックの新国立競技場についての提言

槇 文彦

JSCの5.29案(資料:日本スポーツ振興センター)
JSCの5.29案(資料:日本スポーツ振興センター)

A.JSC新国立競技場案

今年の5月にJSCより発表された新国立競技場基本設計案を詳細に分析すると、様々な疑問点がコスト、維持費、性能について浮び上ってくる。

1.オリンピック時8万人収容の規模をもった有蓋施設は、建設費だけで容易に2,000億円を超えることが想像されるだけでなく、ポストオリンピックの50年以上、スポーツ、室内イベントに8万人の需要即ち市場性が恐らくないまま、厖大な維持、修繕費を支払い続けていかなければならない。

2.室外スポーツ、室内イベントは本来相反する機能を相互にもっている為に、理想的な室外スポーツ施設でもなければ理想的な室内イベントホールでもないという矛盾は永久に解決できない。スポーツ関係者は誰も有蓋化に賛成していない。

3.不完全な半屋外競技場の天然芝に365日間適正な日照、通風、芝表層に湿度を与える為に、高度な技術と莫大な維持費が必要とされることが明らかになったが、それですら普通の屋外競技場の天然芝のクオリティを再現できるという保証は全くない。

4.同様に施設の屋内化に必要な可動式屋根装置は、地上60mから70mの高所における膜式天蓋をスムースに可動、操作させ得る技術的信頼性の保証は全くなく、特に提案されているC種膜は耐久性が低く、又その為に必要とされる10年毎の全面取換えの容易性についての説明もないまま、膜式可動装置の支持材も含めて厖大なコストが建設費、維持費にかかることだけは明らかになっている。

5.一方室内イベントホールの性能はC種膜式可動天井による遮音性能欠如、スタジオジャンピングによる周縁への振動の影響に対する無対策、巨大なボリュームに対する電気音響、暖冷房コスト、市場性確保の懸念等、理想的なイベントホールから程遠いものであることが明らかになっている。又、健全な芝育成の為、使用頻度は年12日以内に抑制されている。

6.可動式有蓋複合施設に決定した唯一の理由は、年間平均12回のイベントからの収入に期待するところが大きいとしているが、その収支計画をみる限り、有蓋とした為に予想される厖大な修繕維持費(様々な支出の一部)はイベントによる7億円収入を遥かに超える額である。更に他の主要収入、源として公にされた特別ルーム、パートナーシップ制の需要についてまったく精細な説明がない。従ってこの施設の収支計画は希望的観測に過ぎず、既に破綻しているといえよう。