容積増が争点に、渋谷区役所と公会堂建て替え計画

2014/11/13

日経不動産マーケット情報

 渋谷区は11月9日、新庁舎と新渋谷公会堂の整備計画案を公表した。現在の庁舎と公会堂がある区の敷地の一部に70年間の定期借地権を設定。三井不動産などが分譲マンションを建てるのと引き換えに、区は新庁舎と新公会堂を無償で建設してもらう。定期借地の権利金を充てて、区の財政負担なしで庁舎などを建て替える全国初の試みだが、ここにきて思わぬ課題に直面している。建築費の高騰だ。

新庁舎と新公会堂の完成予想図。新庁舎の北側に分譲マンションを建てる(資料:渋谷区)

3棟の配置図(資料:渋谷区)

 渋谷区が庁舎の耐震強度不足を理由に、民間から事業スキームを含めた建て替え計画の提案を募ったのは2012年12月のこと。区は2013年12月、応募した5グループの中から三井不動産と三井不動産レジデンシャル、日本設計の3社で構成するグループを選定し、日本設計が中心となって基本設計を進めてきた。

 三井不動産などによる提案は、敷地の南側に新庁舎、東側に新公会堂、北側に分譲マンションをそれぞれ個別の棟として建設するというものだ。現在の庁舎と公会堂がある敷地1万2418m2のうち、マンションを建てる北側の4565m2を区から借りる。

 3棟の総事業費は2013年12月時点で367億円。三井不動産などは定期借地の権利金として区に支払う154億円の代わりに、新庁舎と新公会堂を建設して区に譲り渡す。定期借地期間の終了後、分譲マンションの土地は更地に戻して区に返還する。

 渋谷区は、区の財政負担がゼロであるうえ、庁舎の工期が27カ月と5グループの提案の中で最も短いことなどを理由に、三井不動産のグループを選んだ。庁舎と公会堂、マンションをそれぞれ別棟として配置する点も、「将来の環境変化に対して柔軟性が高い」と評価した。

現在の渋谷区庁舎(左)と渋谷公会堂(右奥)を東側から見る。ともに建築モード研究所(2001年に経営破綻)が設計して、鹿島が施工。1964年に完成した。2013年2月に撮影(写真:日経アーキテクチュア)

分譲マンションの増収策を官民で協議

 このたび区が公表した整備計画案によると、新庁舎は地上15階地下2階建て。地上1階と15階を区民交流ゾーン、2階と3階を窓口ゾーン、4階~12階を事務室ゾーン、13階を2層吹き抜けの議場などがある議会ゾーン、14階を会議室ゾーンとする。免震構造を採用するほか、自然採光や簡単に開閉できるサッシを使った自然通風なども導入する。

新庁舎の環境断面スケッチ(資料:渋谷区)

 新公会堂は地上4階地下2階建て。現在とほぼ同じ計2000席規模の客席を3層にわたって設ける。地下2階に防災備蓄倉庫を配置するなどして、災害時に帰宅困難者を受け入れられるようにする。

新公会堂の客席(左)と1階エントランスロビーのイメージ(資料:渋谷区)

 ただし、新庁舎と新公会堂の延べ床面積はいずれも固まっていない。三井不動産などは提案時点で、新庁舎の延べ床面積を約3万3400m2、新公会堂を約8300m2と想定していた。

 さらに、建て替え事業の要ともいえる分譲マンションの規模も決まっていない。三井不動産などは当初、地上37階建てで高さ121m、延べ床面積約4万5300m2、414戸のマンションを建設して販売すると提案していた。

 分譲マンションなどの規模が決まらない最大の理由は、ここ1年ほどの間に起こった建築費の高騰にある。渋谷区が10月31日に開いた区議会庁舎問題特別委員会で、区の担当者は「建築費が3割から5割上がっている」と指摘した。

 渋谷区が新庁舎と新公会堂を財政負担なしで受け取るには、それぞれの延べ床面積を減らして建築費を抑えるか、分譲マンションの規模を大きくして販売戸数などを増やし、建築費の上昇分を販売収益で補うしかない。区は後者の選択肢を採用する方針で、同特別委員会において「定期借地の面積は変えず、容積率の割り増しで対応したい」と説明。容積率を緩和することで、定期借地の権利金として設定した154億円を数十億円ほど引き上げる考えだ。

 現在の庁舎などがある敷地の指定容積率は500%となっている。これに対して、三井不動産などが当初に提案した新庁舎と新公会堂、分譲マンションの容積率は、3棟の合計で約700%となる。総合設計制度の適用を前提としたものだ。渋谷区は今後、同制度に基づいて容積率をさらに割り増しできないかどうか、官民で協議していく。

高さアップで混乱も予想

 渋谷区は11月中旬に区民を対象とした説明会を開く。説明会で出た意見などを踏まえて、設計を詰めていく方針だ。

 ただし、三井不動産などの当初提案は分譲マンションが37階建てと、他のグループの提案よりも比較的低く抑えている点が選定理由の一つになっており、マンションが高くなれば一部区民などの反発も予想される。10月31日に開かれた区議会庁舎問題特別委員会でも、「重大な変更であり、(三井不動産のグループを選んだ区議会の)議決をやり直すべきだ」などと指摘する委員がいた。

三井不動産のグループの提案に対する渋谷区の評価。同グループを選定した2013年12月時点のもの。49階建てや50階建ての建物を提案したグループがあったなか、分譲マンションの高さを比較的低く抑えたことが選定理由の一つとなっていた(資料:渋谷区)

 現時点でのスケジュールは、三井不動産などが2015年夏ごろに新庁舎などの建設工事を発注。2015年10月に区役所が仮庁舎へ移転した後、現庁舎などの解体工事を始める。新庁舎は2018年度の竣工をめざしている。

 建て替え工事中の仮庁舎は、統廃合でなくなった旧区立渋谷小学校(渋谷区渋谷1-18-9)の跡地などを活用する。同跡地には現在、特別養護老人ホームや保育園が入居する複合施設「美竹の丘・しぶや」があるものの、余った敷地を使う。さらに、隣接する旧東京都児童会館の跡地と区立公園の一部も使って、計3棟の仮庁舎を建設する。一部の工事はすでに始まっている。

建て替え工事中の庁舎の移転先と配置図(資料:渋谷区)

瀬川 滋日経不動産マーケット情報