PR

記事冒頭の「リード」の秀逸さ

 本書の編集作業をしていて、山梨氏の説明のうまさは、「問題設定」の巧みさが根底にあるということに気付いた。失礼な言い方にはなるが、ものの例え方が飛び抜けて独創的というわけではない。文章が小説家のように美文というわけでもない。それでも、読み始めると最後まで読まずにはいられないのは、冒頭の問題設定、本書でいうと「YAMANASHI's EYE」というリード部分が秀逸なのである。

 いくつかリード部分(YAMANASHI's EYE)だけを拾ってみよう。

東京文化会館(設計:前川國男建築設計事務所、1961年)

 「芸術の森・上野。人々を迎えるのは、東京文化会館の量感あふれる庇だ。開館から50年以上、今では『音楽の殿堂』と呼ばれる同館だが、竣工時には、コルビュジエを連想させる庇の造形が批判の的ともなった。この庇は、音楽を愛する前川國男が、雑多な要求のなかで本格的音楽ホールを生み出すための“奇策”であった」

東京文化会館の記事のタイトルページ
東京文化会館の記事のタイトルページ

東京文化会館の記事の冒頭部
東京文化会館の記事の冒頭部

ソニービル(設計:芦原義信建築設計研究所、1966年)

 「日本初の“ショールームビル”として計画された東京・銀座のソニービル。1階から7階までらせん状に続くスキップフロアは、開業から50年近くたった今も全く古びて見えない。計画時に特に苦労したと思われる連続空間の空調計画を、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)によって再検証してみた」

海の博物館(設計:内藤廣建築設計事務所、収蔵庫は1989年、展示棟は1992年)

 「『海の博物館』の薄暗い収蔵庫に足を踏み入れた時の深遠なる印象を、今も忘れることができない。その内部には、特徴あるプレキャストコンクリートの空間が広がる。しかし、収蔵庫の印象の鮮烈さは、視覚だけによるものではなさそうだ。あえて光を抑えることで、人間の五感の働きが高まるのではないか──」

金沢21世紀美術館(設計:妹島和世+西沢立衛/SANAA、2004年)

 「円形の中に展示室を離散的に配したプランが印象的な金沢21世紀美術館。平面図上のタペストリーのような図式に目を奪われがちであるが、その図式が実際に『空間』として体感できるのは、外周部に配された曲面ガラスによるところが大きい。建築デザインの根本ともいえる窓の新たな方向性を示した名作だ」

金沢21世紀美術館の記事のタイトルページ
金沢21世紀美術館の記事のタイトルページ

金沢21世紀美術館の記事の冒頭部
金沢21世紀美術館の記事の冒頭部