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2011年夏に生じた大規模な河道閉塞によって、奈良県の山間部では20km下流まで土石流の危険性が高まった。越流や崩落の危険と隣り合わせのなか、5カ月間で約13万m3の土砂を掘削。仮排水路を設けた。

崩落した斜面を対岸から見上げる。斜面の下に築いた防護土堤は高さ3m。崩落の危険がある場所では無人化施工を取り入れた。3月2日撮影(写真:大村 拓也)
崩落した斜面を対岸から見上げる。斜面の下に築いた防護土堤は高さ3m。崩落の危険がある場所では無人化施工を取り入れた。3月2日撮影(写真:大村 拓也)

 2011年8月30日から9月4日にかけて台風12号がもたらした集中豪雨によって、奈良県や和歌山県、三重県で合計約1億m3の土砂が崩壊した。部分的なものを含めると、17カ所で河道閉塞が確認された。翌12年4月、国土交通省近畿地方整備局は5カ所で緊急工事を進めている。

 そのうちの一つ、奈良県五條市大塔町赤谷地区にある河道閉塞は、土砂ダムの高さが85m、ダム湖のたん水量が満水時で230万m3と推定されている。

 「赤谷地区の崩壊土砂量は約900万m3ある。到底すべて取り除くことはできない」。近畿地整河川部の中川靖志建設専門官はこのように話す。12年2月末までの5カ月間に掘削できた土砂は13万m3程度。それでも、通常の土工事ならば1年以上かけて施工する規模だという。

 国交省は被災直後の11年9月6日から緊急調査に着手した。その結果、赤谷地区の土砂ダムが決壊した場合、本流の十津川に沿って最大約20km下流まで土石流が到達することが判明した。この情報に基づいて、五條市と十津川村は9月16日、危険な範囲を警戒区域に設定し、94世帯の住民178人を避難させた。

 中川専門官は「警戒区域をいかに早く解除できるようにするかが大きな課題だった」と話す。緊急工事ではまず、ダム湖の水を常時自然流下させるために内径1mの仮配水管を約465mにわたって設置した。これによって、非出水期であれば2年に一度の増水に耐えられる。

 並行して、かごマットと床固めなどを備える全長440mの仮排水路の工事を進めている。土砂ダムを越流した場合も、河床を洗掘せず安全に流下するようにするためだ。出水期に入る6月までに、通年でも2年に一度の増水に対応させる。

 この方法は上流側にダム湖を残すことになるが、崩れた土砂をすべて撤去しようとすれば、周辺の地盤が不安定になり再崩落の危険性が高まる。「元の河床まで掘り下げるのではなく、安全を確保できる掘削断面と河床の高さがどのぐらいなのかを検討しながら設計した」と、赤谷地区の緊急工事の設計と施工を担当する鹿島の船迫俊雄所長は説明する。

河道閉塞発生直後の航空写真(写真:国土交通省)
河道閉塞発生直後の航空写真(写真:国土交通省)

1回の越流で最大20日間工事中断

 船迫所長が初めて現地に足を踏み入れたのは9月11日。日本建設業連合会(日建連)の一員として、被災状況を把握するためだった。しかし、国道168号から現場まで通じる県道734号も増水で被災し、通行は不能。現場までの4.5kmの道のりは歩かなければならなかった。

 その後、国交省は災害時の協定に基づき、日建連に対して5カ所の河道閉塞の緊急工事への協力を要請。日建連は赤谷地区の施工者として、鹿島を選定した。

 船迫所長が現地に正式に赴任したのは、9月16日。ただし、実際に河道閉塞の現場で工事に着手できたのは9月29日だ。船迫所長は、「重機が入れるようにすると同時に、自動車で逃げるための退路を確保しながら、下流側から順にアプローチしていく必要があった」と話す。

 国交省の排水ポンプをダム湖付近に設置できたのもこのときだ。その間も、河道閉塞の状況は日々刻々と変化していった。9月19日から続いた台風15号の大雨によって、土砂ダムからの越流が発生。最大で高さ20m程度浸食された。「最初に調査したときと、河道閉塞の状況が全く違っていた」(船迫所長)。

 越流は、10月16日と11月20日にも発生。いったん越流すると、ダム湖の水位が元に戻るまでに20日間かかることもあった。「作業に手戻りが生じるばかりか、地下水位が高い場所では掘削を進められなかった。12月25日に仮排水管が完成するまで、予断を許さない状況が続いた」と船迫所長は振り返る。

崩落危険箇所で無人化施工を採用

 越流のリスクを抱える一方、現場は高さ700m以上にわたって崩落した長大な斜面の下での作業となる。船迫所長によれば、斜面の地質は強い雨が降ると崩れやすい崩積土。このため、斜面を整形し、斜面の下に高さ3m程度の防護土堤を構築して斜面の崩落に備えた。崩落の危険がある範囲の作業には、重機を遠隔操作する無人化施工を取り入れた。

 ようやく下流の警戒区域が解除されたのは、12年2月8日。仮排水路の暫定運用が始まり、土石流の危険が小さくなったからだ。ただしその後も、現場では斜面から仮排水路に泥流が流れ込むアクシデントに見舞われた。「施工の難しさは今も変わっていない」(船迫所長)。

[現場概要]

■名称=川原樋川赤谷地区河道閉塞緊急対策工事
■施工場所=奈良県五條市大塔町清水
■発注者=国土交通省近畿地方整備局大和川河川事務所
■設計者=鹿島
■施工者=鹿島(現場代理人:船迫俊雄、元請けの技術者数:6人)
■主な専門工事会社=冨島建設、上武建設、檜尾建設(以上、土工事)
■工期=2011年9月~12年3月
■工費=5億3760万円(12年2月末時点)
■入札方式=随意契約
■予定価格=算定中(12年3月28日時点)

(日経コンストラクション2012年4月9日号の記事をもとに構成しました。文中の肩書や年令、データは原則として掲載時のものです)