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 風力発電の騒音を巡る訴訟で、環境省が2年前に提示して物議を醸した目標値案「35dB」を基準とする住民側の主張を退ける判決があった。発電事業者が非現実的だと猛反発した数値を、裁判所も科学的な妥当性に欠けるとして認めなかった。

 判決があったのは、久美原風力発電所(愛知県田原市)による騒音で不眠や頭痛の被害を受けたとして、近隣に住む男性が発電事業者のミツウロコグリーンエネルギーに運転差し止めと500万円の慰謝料を求めた訴訟。名古屋地方裁判所豊橋支部は4月22日、男性の請求を全面的に退ける判決を下した。男性と事業者はともに控訴せず、5月8日に判決が確定した。

ミツウロコグリーンエネルギーの久美原風力発電所(愛知県田原市)。周囲には畑や林が広がる(写真:ミツウロコグリーンエネルギー)
ミツウロコグリーンエネルギーの久美原風力発電所(愛知県田原市)。周囲には畑や林が広がる(写真:ミツウロコグリーンエネルギー)

 愛知県南端の渥美半島にある田原市は、三方が海に囲まれているため強い風の吹く日が多く、風力発電施設が数多く立地する。久美原風力発電所はミツウロコグリーンエネルギーが2007年1月に完成させ、運転を開始した。発電出力1500kWの風車が1基あり、ブレード(羽根)の直径は約70m、支柱の高さは約65mだ。

 同発電所は市内東端の海岸から約1km離れた位置にあり、近隣には畑や林が広がる。県道397号が約450m北を、国道42号が約350m南を通っている。北東へ約350m離れた位置に、原告の男性の住居がある。

 運転開始の約1週間後、男性はミツウロコグリーンエネルギーに対し風車騒音による不眠や頭痛を訴えた。これを受けて、同社が風車に吸音材を設置し、男性宅の窓に二重サッシを取り付けるなどの防音措置を施したものの、男性は依然として騒音が受忍限度を超えているとして、同社を相手取って昨年3月に訴訟を提起した。

 騒音の大きさが自宅周辺の屋外で45~53dB、屋内でも37~41dBに上るとしたうえで、風力発電施設の騒音の基準を35dBにすべきだと訴え、この基準を超えていることを差し止め請求などの根拠の一つとした。