住宅の海外生産がもたらす変化とは
前回、紹介した米国カリフォルニア州在住の建築家、キモン・オーヌマ氏が提案するドーム型のプレハブ住宅は、BIMの設計手法を駆使してその後も設計や見積もり作業が進み、輸送費などを含めても200万円程度で建設できるという試算もある。
オーヌマ氏の父親も建築家で東京に在住している。前回の記事で紹介した間取りプランなどを見た父親からは、「日本人は畳の上で寝ることを好む。畳の部屋を作ると布団を収納する押し入れも必要だ。寝室とトイレや浴室は離した方がよい。また、霜対策や床下換気のため、地面に直接、床スラブを設置しない方がいいだろう」というアドバイスがあった。
そこでオーヌマ氏は畳の部屋を含む2~3室からなる仮設住宅のプランを作った。米国製の仮設住宅に、少しずつ日本の文化が取り入れられてきた。
4月12日には第一弾となる2戸のドーム型住宅が東京に到着した。同社の代理店が被災地に寄贈したものだ。「この2戸は、最も津波の被害が大きかったオオフナトとスミダにそれぞれ設置される予定だ」と、ドーム型プレハブ住宅の販売元である米インターシェルター社のドン・カブレー社長は語る。カブレー氏自身も被災地入りし、ドーム型住宅の設置についてアドバイスを行っている。もし正式受注となれば、数カ月の間に数千戸のドーム型住宅を日本に供給できるという。
オーヌマ氏はさらに、BIMによる国際的な仮想設計コンペの手法を使って世界中の設計者や技術者が国際的に協働し、日本の復興計画作りを支援するプロジェクト「BIMStorm Japan」を実行する準備を進めている。
今回紹介した、ITを駆使した3つのプロジェクト――iPadの活用による現場ニーズに合った仮設住宅の設計・建設を目指すペーパレススタジオジャパンの取り組み、ツイッターやウェブサイトで新しい仮設住宅のコンセプトを実現しようとする吉村氏の取り組み、そしてBIMを活用したオーヌマ氏による国際的なコラボレーション――に共通することは、住宅のプレハブ化と海外生産だ。
このように、インターネットやBIM、携帯情報端末などのITを武器に、世界中どこでも設計や部材の生産を行い、早く、安く、そして高品質な仮設住宅の建設が実現可能であることが実証されつつある。
逆の視点で見れば、将来、海外で災害が起こったとき、日本にいながらITで現地の事情に合った仮設住宅の設計や生産を行い、貢献できるだろう。
こうした取り組みが有効な場面は、被災時の支援活動にとどまらない。海外で建設するオフィスビルや集合住宅などの建設でも、3Dレーザースキャナーなどの測量機器で現地の状況をデジタルに写し取り、そのデータに基づいてBIMや解析、シミュレーションソフトなどを活用して設計や施工計画を行うことにより、かなりの業務を日本にいながらこなすことができるだろう。
長年、国内市場を相手にした「地場産業」というイメージが強かった建設業だが、ITを活用した様々な仮設住宅プロジェクトから、「地場」にいながらにして本格的な国際ビジネスを展開できる道筋が少し見えてきたのではないだろうか。

<訂正>初出時、2ページ目本文で「プレハブ住宅『CCハウス』」、写真キャプションで「海上輸送コンテナと同じサイズで作った『CCハウス』」と表記していましたが、それぞれ「プレハブ住宅『エクスコンテナ』」「海上輸送コンテナと同じサイズで作った『エクスコンテナ』」と訂正しました。また、CCハウスに関する説明文を追加しました。(2011年4月20日19時15分)