PR

 「全国規模での状況認識の統一を可能にするために、志を同じくする者が集い『東北地方太平洋沖地震緊急地図作成チーム』を本日結成し、内閣府防災担当のご協力を得て地図作成活動を開始しました」──東日本大震災が発生した翌日の3月12日、京都大学防災研究所巨大災害研究センターの林春男教授は「EMT:Emergency Mapping Team」の活動開始を宣言した。

 EMTとは、東北地方を中心に広い範囲にまたがる震災の被害状況や避難所の位置、復旧作業の状況など、様々な情報を地図上に整理し、情報発信する活動だ。「東日本大震災は複数の都県が同時被災した超広域災害だ。全国規模での災害対策には、状況認識の統一が必要だ」と林教授はEMTの目的を説明する。

GISで被害状況などの地図を作成

 活動の拠点は内閣府内の特別会議室に設置した「地図作成センター」だ。ここに大学や企業などから数十人のボランティアが集まり、GIS(地理情報システム)を使って様々な地図を作っている。林教授は地図作成チームのリーダーを務める。

EMTの地図作成チームのリーダーを務める京都大学防災研究所巨大災害研究センターの林春男教授(左)と内閣府内の特別会議室での活動(右)(写真:EMT)

東北地方太平洋沖地震緊急地図作成チーム(EMT:Emergency Mapping Team)」のウェブサイト(資料:EMT)

 「国レベルでの広域的な状況認識」、「都県レベルでの活動の調整」、「緊急性・重要性が高い現場での活動」という視点で、それぞれに求められる情報を地図によって可視化する作業が続けられている。

 その量は膨大だ。一般の地図と同様に作られた「静的MAP」は、地図のカテゴリーだけでも18種類あり、それぞれに対して数枚から数十枚の地図が公開されている。また、異なる情報を自由に組み合わせて新しい地図を作る元となる「動的MAP」は約90枚が公開されている。5月1日現在で、作成した地図は502枚にも上った。

静的MAPの例。左は浸水地域(赤い部分)と倒壊件数、右は65歳以上人口比率の分布図(資料:EMT)

●静的MAPのカテゴリー

福島原発避難指示エリアにおける建物棟数の推計
原発避難指示エリア
環境放射能調査結果
東京電力計画停電
標高10m、5m以下エリアにおける建物棟数の推計
震度分布別人口・世帯数(被害報)
世帯数(被害報)2011.3.13 特定被災地方公共団体
65歳以上人口
要援護者受入れ可能施設
建物被害
負傷者
死者・行方不明者
火災
孤立者
避難所
輸送拠点
関係省庁の応援派遣状況
白地図

 活動開始の当日には「福島原発避難指示エリアにおける建物棟数の推計」という地図を作成し、当時の避難指示エリアである第一原発から20km以内に2万8471棟、第二原発から10km以内に9100棟、両エリアが重なる範囲に8741棟という具体的な情報が示された。

 また18日には津波の被害が大きかった宮城県太平洋沿岸部の「標高5m-10m以下エリアにおける建物棟数の推計」という地図が公開され、津波の高さと建物の分布から分析した各市区町での棟数が示された。

 枚数が多いのは「環境放射能水準調査結果」だ。全国の都道府県おける環境放射能の最大値、平均値、最小値などを時々刻々と更新している。

 4月7日には災害救助法適用市区町村別に、65歳以上の人口と比率をまとめた地図を公開した。

 これらの地図は、国内外の様々な機関が公開している専門情報を収集し、EMTの地図作成チームがGISシステムに入力して作ったものだ。情報の重複作成の無駄を防ぐとともに、各地の人々が情報の整理を行って被災地に届けることにより、復旧・復興活動もスムーズになる。EMTには約40の企業や団体、大学が参加している。

 GISによって災害に対する状況認識を統一する活動は、2007年に発生した新潟県中越沖地震でも試みられた。新潟県知事の要請により、産官学民によって編成された「新潟県中越沖地震災害対応支援GIS チーム」(EMC)だ。今回のEMTのメンバーはEMCの参加者が母体となっている。「今回の東日本大震災は広域にわたる複合災害で、国家レベルでの危機事案であるため、内閣府を拠点に活動している」と林教授は言う。