BIMモデルというデジタルデータを、設計だけでなく施工や維持管理にも生かすことで、建設業界の“デジタル変革”が進みつつある──。2011年5月11日~14日、米国ニューオーリンズで開催されたアメリカ建築家協会(AIA)全米大会で講演したマグロウヒル・コンストラクション社のシニア・ディレクター、ステファン・ジョーンズ(Stephen A Jones)氏は、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が米国建築界にもたらしつつある質的な変化について語った。
3年前の大会までは、BIMに関する特別セッションが1~2日間にわたって開かれることもあった。しかし2年前からBIMだけに焦点を当てた発表は徐々に減り、今大会ではほとんどなくなった。それは、米国の建築設計界でBIMが当たり前のものになりつつあることを物語っている。
米国の建築家にとって、BIM導入の大きな原動力となったのは、CGやウォークスルーのデータによるプレゼンテーション、景観検討などのデザインを可視化する機能などだった。また、BIMモデルから図面を切り出すことによる平面図、立面図、断面図など図面間の整合性確保、そして建物の意匠、構造、設備の干渉を未然に防ぐことにより、設計・施工の手戻りを防止する「フロントローディング」も魅力だった。
このようなBIMの基本的な機能の活用が珍しくなくなった米国の建築界では、さらに多岐にわたる用途が広がり始めている。設計から建物の運用まで、あらゆる局面での業務効率化とコスト削減にBIMが活用され始めているのだ。
ジョーンズ氏は「BIMのこれから(Beyond BIM)」と題した講演の冒頭で、「建設プロジェクトの設計、施工と完成後の運用を、BIMが変革し始めた」と指摘した。「この業界でこれまでに一度もなかった、最もエキサイティングな時代がすぐそこに来ている」と言う。
大学で建築を専攻した後、経営学修士号(MBA)を取得した同氏は、建築設計事務所に19年、プロジェクトマネジメントソフト会社に3年務めた後、建設専門の出版社であるマグロウヒル・コンストラクション社に移籍。8年間にわたってBIMの技術や活用方法などの調査や執筆活動を行ってきた。2007年以降は、BIMのユーザーを対象とした調査を毎年実施し、報告書を執筆している。