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VRやARとの連携で建築物の新しい表現方法に

 BIMモデルデータをバーチャル・リアリティー(VR)システムに読み込み、立体視できる3Dスクリーンやヘッドマウントディスプレーを使って立体のイメージ図を見ることにより、建築の専門知識がない施主でも完成後の状態やスケール感をリアルに理解できる。内装など細部の設計、施工を手戻りなく行ううえで有効だ。

 ステファン氏はヘッドマウントディスプレーを装着した一般女性が、仮想的な室内空間を動き回る様子をビデオで紹介した。女性の目には室内の様子が立体感をもって映り、仮想のベッドの下をかがみ込んでみると、視点や見える角度も実物同様に変化する様子がリアルに表現されていた。

ヘッドマウントディスプレーを装着した女性が完成後の室内をVRで体験している例(写真:ANT Group)

 現実の風景と、仮想の風景を組み合わせる「拡張現実感」(AR:Augmented Reality)もBIMモデルが有効に活用できる分野だ。

 VRやARなど最新の技術を駆使した建築設計サービスを提供するコンサルタント会社、アントグループ(The ANT Group)では、建物の建設予定地に画像を合成するための目印になるシートを置き、ヘリコプターに乗った施主がARによって完成後の建物イメージをリアルに見られる“世界最大”のシステムも開発した。

ヘリコプター(上段)にARシステムを搭載し、地上の建設予定地に目印となるシート(中段)を設置。上空からは建物のBIMモデルと現実の風景を組み合わせて完成後のイメージ(下段)が見られるようにした(写真:ANT Group)


YouTubeで公開されている「World Builder」と題した作品(資料:ANT Group)

 このほか同社では、ARやVRをBIMと連動させて、建築家自身がスケール感や建物の色、質感などを体感しながら建物を設計する近未来の設計手法をモチーフにした「World Builder」というビデオ作品を公開している。

 例えば、3次元デザインソフトでは、長方形を押し出して直方体のブロックを作ったり、切り取りや穴開けを行ったりしてモデリング作業を行う。これと同じように、VRやARを設計作業に導入することで、建築家自身が縮尺を気にせず、あたかも原寸大の建物形状を作り上げたり、パレットから床のタイルや外装材などのテクスチャーを選んでその上から流し込むようにしながら建物を設計していくイメージだ。。

建築家が実物大のBIMモデルを仮想現実感によって設計するイメージを表した作品「World Builder」(資料:ANT Group)


YouTubeで公開されている「The World's Largest AR Marker」と題した作品(資料:ANT Group)

 講演の最後にジョーンズ氏は「建設業界や建物管理業界にとってデジタル変革の意味はなにか」と問うた。その答えの一つはBIMモデルデータによる設計、施工プロセスは一般的になりつつあること、もう一つはすべての人のビジネスが変わることだ。

 マグロウヒル・コンストラクション社のBIMユーザー調査によると、BIMを使っていない人のうち40%が「2年以内にBIMを導入する計画」と答えている。マグロウヒル社では、2015年までに米国の建設会社が手がける新規ビル工事の70%以上でBIMが使われると予測している。

 「BIMの新しい活用によって成果を上げていくために重要なことは、新しいものを得ることではない。心の中に革新的な考え方を持ちことだ」と述べて、ジョーンズ氏は講演を締めくくった。

「重要なことは、新しいものを得ることではない。心の中に革新的な考え方を持ちことだ」と述べて講演を締めくったジョーンズ氏(写真:家入龍太)

家入龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。 家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/ツイッターやfacebookでも発言している。