PR

 1kgの水が蒸発するときに必要な気化熱は、約580kcal。0℃の水を100℃に加熱するのに必要な熱量の6倍近くの熱を周囲から奪っていく。日本に古くから伝わる「打ち水」は、この強力な冷却力を利用して夏に涼をとる方法だ。最近、この気化熱の仕組みを空調の省エネに生かすシステムが注目を浴びている。

 簡単な散水装置から、ITを活用して遠隔操作や自動制御で“打ち水”をする本格的なシステムまで、気化熱利用の手法は様々だ。簡易に設置できるシステムもあるので、福島第一原発の事故による今夏の電力危機対策にも組み込めそうだ。

 東京・豊島区の現代ギター社では、今夏の節電対策として、コンサートを行う「GGサロン」の屋根に散水装置を取り付けた。ガーデニング用品の商品である電池式の「水やりタイマー」に、首振り式スプリンクラーを接続した単純なものだ。設置工事はSMCリフォームに依頼し、設置費用は装置と工事を含めて20万円弱だった。

現代ギター社社屋の屋根に設置した散水装置(写真:君島秀郎氏)

 11時30分から1時間おきに5分間ずつ、15時30分まで散水し、最後にコンサート開始前の17時に5分間散水するように設定している。散水は1日6回まで曜日単位で設定できる。晴れて暑くなりそうな日の朝に水道の蛇口を開けておき、雨が予想される日には蛇口を閉めるという、単純な分かりやすい制御だ。

 現代ギター社社屋の屋根は鉄骨造スレートぶきで断熱も十分ではないため、夏には屋根裏が高温になり、空調の効きも悪くなっていたが、散水装置稼働後はかなり状況は改善しているという。

 「結果として、断熱性が十分でないことが、かえって屋根散水の効果を高めているようだ」と同社の君島秀郎氏は語る。同社ではこのほか、100本の蛍光灯を中国製の蛍光灯形LEDランプに取り換えたり、荷造りに使う“プチプチ”を利用した「窓ガラス断熱シートフォーム」を窓ガラスに張るなどして、今夏の電力不足に対応する。

 大規模な“打ち水システム”としては、2011年3月、東京・大崎に完成したソニーの新オフィスビル「ソニーシティ大崎」(地上25階建て、床面積約12万4000m2)の壁面に取り付けられた気化冷却外装「バイオスキン」がある。雨水を貯留し、晴天時に太陽光発電によってくみ上げ、ビルの外部を覆うように取り付けられた陶器製の管に供給。陶器の管の空隙から少しずつにじみ出る雨水が蒸発する時に周囲から奪う熱によって、外気を冷却する仕組みだ。

ソニーシティ大崎に設置されたバイオスキン。(上段左)ビルの外部を覆うように取り付けられた陶器製の管。(上段右)管の断面。(下段左)手や顔が管に触れると涼しい。(下段右)サーモグラフィーの画面でも管の部分が青色になっており、冷たいことが分かる(写真:家入龍太)

 「バイオスキンによる内部の空調負荷の低減によって、CO2排出量を2~3%削減することを期待している」とソニー広報部の南優子氏は語る。

 また、バイオスキンを装着・稼動した建物が存在することによって、建物内部だけでなく周囲の空気も冷却する効果が期待されている。都心のヒートアイランド現象をビル自体が軽減しようという世界初の試みだ。

 同ビルには7月から、ソニーを中心としたグループ社員約5000人が順次入居する。入居に伴ってバイオスキンを稼働させ、効果測定も行う予定だ。ソニーでは、バイオスキンに加えて、ビルに設置された大容量の蓄電池によって夜間にためた電力を昼間に活用することにより、昼間に使用する電力の約3分の1を抑制することができると試算している。