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 3次元CADで設計した彫刻や家具、そして小規模な建物などを実際の大きさで作成する巨大3Dプリンター「D-SHAPE」。この夢のような“施工機械”を開発しながら、顧客からの造形注文を請け負っているのが、イタリア・ピサ在住のエンリコ・ディニ氏(Enrico Dini)とリカルド・ディニ氏(Riccardo Dini)の兄弟が経営するディニ・テック社(Dinitech Spa)だ。

 「D-SHAPE」については、7月6日のコラムでも簡単に紹介したが、今回は現地でさらに詳しく話を聞いてきた。2011年7月26日、エンリコ氏は、ピサで開催されたバーチャルリアリティーの専門家会議「World16 サマー・ワークショップ」で、D-SHAPEの開発について詳しく講演し、27日はリカルド氏がディニ・テック社の工場を公開した。巨大3Dプリンターの開発の最前線をお伝えしよう。

 弟のエンリコ氏は、ピサ大学で土木工学を専攻した後、ロボット関係の仕事に就いた。2006年にD-SHAPEの開発を始めると、同じくピサ大学で機械工学を専攻した兄のリカルド氏も開発に協力。現在は彫刻や家具の注文に追われながら、機械自体の構造や造形用の材料などの改良を続けている。

 現段階では材料の強度などの問題で、「D-SHAPE」では彫刻や家具などの製作を行っているが、これらの問題が解決されると建物の施工方法やデザインを大きく変える可能性を秘めている。

World16 Summer Workshopで講演するエンリコ・ディニ氏(左写真:右から2人目)。ディニ・テック社の工場に置かれたD-SHAPE(右写真)(写真:家入龍太)

ディニ・テック社の工場(写真:家入龍太)

造形用の“インク”の開発が実用化のキーポイントに

 D-SHAPEの仕組みは、石こう系の材料を使う3Dプリンターと似ている。材料を5~10mmの厚さに敷きならしては、物体の断面形状に沿って「D-SALT」(3Dプリンターのインクに相当)と呼ばれる液体の硬化剤をプリンターヘッドから噴射し、その部分の材料を5mm四方の単位で固めていく。

 この作業を1時間当たり、30~50mmの高さで延々と繰り返しすと、最後は砂山ができる。固まっていない部分の砂を除去すると、造形した物体が現れるという仕組みだ。

7月6日のコラムでも紹介したオブジェ「ラジオラリア(Radiolaria)の作成過程。3次元CADでオブジェのモデルデータを作成(左)。造形後、空洞部分の砂を撤去してオブジェを掘り出す(中央)。完成したオブジェ(右)(写真:Enrico Dini)

 2006年、エンリコ氏が開発を始めたとき、最初に突き当たったのは“インク”の問題だった。当初はエポキシ樹脂の使用を考えた。しかし、主剤と硬化剤の2液を混合してから、材料に噴射するためには1個1万5000ユーロ(約165万円)という高価で複雑な噴射用ノズルが必要なうえ、造形に時間がかかりすぎるのが問題だった。

エポキシ樹脂による造形実験(資料:Enrico Dini)

 この問題を解決するため、エンリコ氏は化学の専門家に相談した。そこで開発されたのが、海水から塩分を取り除いてつくった液状の硬化剤「D-SALT」だ。これを海底の土を加工して作った「D-OXIDE」というバインダー(セメントのように砂などを包み込んで固める材料)に反応させる。砂などにバインダーを2割程度混ぜた材料に、D-SALTを滴下することで材料全体が固まる仕組みだ。

 「この硬化剤とバインダーのコストはエポキシに比べて非常に安く、大量に使える。噴射ノズルも20ユーロ(約2200円)程度の安価なもので済むようになった」とエンリコ氏は語る。

 ディニ・テック社の工場には、サイズと仕組みがやや違うD-SHAPEが2台置かれている。これらの機械に取り付けられたプリンターヘッドには、それぞれ2cm間隔で300個ものノズルが装備されている。安価な硬化剤とバインダーの開発により、実用に耐える機械の実現に結び付いた。

海水から塩分を取り除いて造った硬化剤「D-SALT」。ぬめりのある液体で、なめると非常にからい味がした(左)。D-SHAPEのプリンターヘッドにずらりと並んだノズル(右)(写真:家入龍太)

 機械は現場のニーズに応じて現在も改良が続いている。例えば、連続的に造形するために砂とバインダーを混ぜた材料の自動供給装置を導入したり、造形が進むにつれて高くなる“砂山”が広がるのを防ぐために「擁壁」を取り付けられるようにしたりといった工夫だ。

 造形後に機械を移動させる作業には天井クレーンとフォークリフトを使っているが、この作業を簡略化するため、片方のD-SHAPEには支柱の下に車輪を取り付けた。また、この機械にはD-SALTと材料をしっかりと一体化させ、強度を高めるために次の層を敷きならした後にローラーで締め固める装置も取り付けた。

 「今はD-SALTの噴射ノズルと材料供給装置が一つのヘッドに取り付けてあるため、ノズルが砂まみれになりやすい。今後、ノズルと材料供給装置を分離したい。また、ローラーの代わりに振動で締め固める装置も開発中だ」とリカルド氏は言う。

敷きならした材料を転圧するローラー(左)。材料(砂とバインダーの混合物)を自動供給する装置(右)(写真:家入龍太)