材料の強度にはまだ課題が
ディニ・テック社の工場では欧州各国から舞い込む彫刻や家具の造形作業に追われている。2台のD-SHAPEをフルに駆使し、造形が終わると材料が固化するのを待って掘り出す作業が必要だ。その時間を造形に充てるため、D-SHAPEを車輪やクレーンなどで別の場所を移動させては次の造形を繰り返している。
「大体、1週間に1つの彫刻などを造っている。彫刻外形の体積1m3当たりの価格は1400ユーロ(約15万4000円)~2000ユーロ(約22万円)なので、普通の彫刻よりはかなり安い。小さな彫刻や家具はまとめていくつも造形できる」とリカルド氏は説明する。同社の年間売上高は約35万ユーロ(約3850万円)だ。
安いだけではない。複雑な曲面やらせん形状が組み合わさった彫刻など、人間の手では造れないものもD-SHAPEなら簡単に造れるのだ。工場の外には、出荷を待つ家具や、複雑な形をした彫刻の試作品などが並んでいた。
工場内ではある彫刻の仕上げ作業が行われていた。表面に硬化剤を仕上げ塗りして強度を高めるとともに、輸送中に破損しないように空間に発泡材を充てんしていた。2000kmも離れた場所から注文が来ることもある。そのため、彫刻の形や輸送距離によっては“梱包(こんぽう)材”もD-SHAPEで一体造形し、輸送後に解体することもある。
ところで、工場内を見渡したところ、建物のプレハブ部材はつくっていないようだった。聞いてみたところ、造形後の材料の強度がまだ十分ではないため、今のところまだ建築物に使う部材はつくっていないという。
「砂を70%含む標準的な材料の圧縮強度は約15N/mm(約150kgf/cm2)と、建築物の構造材には不十分だった。そのため、現在は強度の基準がない彫刻や家具などを製作している」と、エンリコ氏は語る。
なお、硬化剤とバインダーはD-SHAPEでの造形以外にも、いろいろな材料と混合して壁に塗ったり、型に入れて造形したりと、一般の建材としても使える。「D-SALT」は1トン550ユーロ(約6万500円)、「D-OXIDE」は1トン280ユーロ(約3万800円)で市販している。