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補強材や施工方法の工夫を検討中

 「D-SHAPEの開発を始めた動機は、実物の建物を造るためだった」と、エンリコ氏は将来、建築物をこの機械で造るための材料開発に熱意を燃やしている。

 硬化剤とバインダーだけを混ぜた場合の強度は、約50N/mm2(約500kgf/cm2)にも達する。リカルド氏は工場で構造インクとバインダーをプラスチック製のコップに入れて、混合する実験を行ってくれた。硫黄のようなにおいがするこの混合物は、約17時間で固まる。

 以前に混合し、既に固まったものをコップから出すと、色は薄茶色で表面はプラスチックのようにつやつやしていた。大理石のように硬く、グラインダーのような工具を使わないと切断や切削は難しいほど硬い。

混合材料
構造インクとバインダーを混ぜたところ。硫黄のにおいがした(写真:家入龍太)
固まった材料
固まった材料。大理石のようなつやと硬度を持つ(写真:家入龍太)

 「造形時に砂の代わりに火山灰を使うと、セメントのように強度が徐々に高くなることも分かった」とリカルド氏は言う。

 同社のウェブサイトによると、高い引っ張り強度を持つ補強用のグラスファイバーやカーボンファイバー、ナイロンファイバーなどを材料に混ぜることで、さらに強度を増すことができる、ということだったが、今後の開発課題のようだ。

 「まっすぐなファイバーだと材料を敷きならす時に水平になってしまう。そこで補強材を消波ブロックのような形にすると、どこか1本は必ず上下方向を向くようにできる」とエンリコ氏はアイデアを語った。そのほかケーブルやコンクリートを併用することで、補強する方法も考えられそうだ。

 ディニ・テック社の工場では、高さ約8.5mもの巨大な彫刻を分割して製作している。小さく分けて造形したブロックの内部には穴が明けてあり、ブロックを組み立てた後に穴にケーブルを通し、プレストレストコンクリートのように緊張力を導入して強度を高める方法だ。

高さ約8.5mの巨大彫刻の仮組み作業。各ブロックの内部には補強用のケーブルを通す穴が明けてある(写真:家入龍太)

 「将来、建築物に自由造形のブロックを使う場合には、内側に空洞をつくっておき、打ち込み型枠のように組み立ててコンクリートを打設する方法も考えられる」とリカルド氏は語る。

 現在は鉄筋コンクリートで躯体を造り、その後に装飾用のタイルなどを張り付ける手順が一般的だ。それとは逆の手順で、先に建物の表面となる部分のブロックをD-SHAPE造り、ケーブルで補強した後に内部のコンクリートを打設し、一体構造にする方法だ。

 いずれにしても、D-SHAPEで実用となる建物を造るためには、材料の強度や挙動についての研究開発が今後も欠かせない。彫刻や家具などの製作作業に追われるディニ兄弟の悩みは、研究開発に十分な時間と労力を割けないことだ。