設計、施工にBIM対応の設備CAD「S-CAD」をフル活用
工事の設計、施工には、同社が開発したBIM対応の設備用3次元CAD「S-CAD」をフルに活用し、温度ムラのない快適な執務環境を実現するために熱流体解析(CFD)を行った。
新菱冷熱工業では2005年に「S-CAD利用推進プロジェクト」を結成。S-CADの活用に力を入れており、社内の昇進試験でもS-CADの試験を導入している。2009年1月に社内でコンペを行い、省エネ改修工事のアイデアを募った。その結果、12グループが応募した。今回の設計には、当時の応募された内容が生かされている。
「社内コンペの応募もS-CADを使うことを義務づけた。その結果、アイデアをBIMツールによって形にする訓練の機会となった」と新菱冷熱工業首都圏事業本部第一エンジニアリング部技術5部企画課長の谷内秀敬氏は語る。
フロアによって空調方式も、「床吹き出し」「天井吹き出し」と変えたり、天井板を設けなかったりと、設計にも多様性を持たせた。天井板がないと空調機器類や配管がむき出しになってしまう。
「そこで事前に社員に完成時のCGを見てもらい、気にならないことを確認した」と、現場所長を務める同社首都圏事業本部第一エンジニアリング部技術五部技術三課主任の宮崎輝氏は説明する。設計事務所と機器やダクト類の配置や納まりや、メンテナンスのしやすさを検討するときにも3次元のCGを活用した。
設備工事にとって重要なのが、機器の搬入・設置作業における周辺住民との事前の意思疎通だ。これまで、周辺住民などへの説明するときには図面を使うことが多かった。住民に分かってもらったと思っていても、当日になって立ち入り禁止の範囲や作業方法などが思っていたものと違うという理由で、作業させてもらえないこともある。トラック10台で搬入した機器が、その場で追い返された例もあったという。
「そこで狭い通路を使ってクレーンによる搬入作業を3次元空間でシミュレーションした動画を作って住民に見せた。住民は『ここは立ち入り禁止ですね』『こんなに大きなものをクレーンで吊り上げるのですね』と、よく理解してくれ、意思疎通の問題は起こらなかった。当日の作業を記録したビデオと比較すると、非常によく合っていた」と宮崎氏は説明する。
CFD解析を行い空調吹き出し口の位置を決定
室内の温度を均一にするために、スパン単位で空調制御を行う「個別分散型セントラル空調システム」を採用した。そのため、床吹き出し方式のフロアでは、床のあちこちに電動で開閉する吹き出し口を設けた。
効果的な空調を行うためには、室内全体での温度ムラをなくす必要がある。そこでCFD解析を行い、室内の温度が均一になるように吹き出し口や吸い込み口の位置や流量を決定した。
古いビルならでは問題もある。天井高が低いため、床下を空調ダクトとして利用するための高さが150mmしか確保できなかったのだ。
「床下には電源やLANなどのケーブルも通っている。そこでケーブル類も含めて床下空間をモデル化し、CFDで解析した。その結果、床下が150mmしかなくても、十分ダクトの役目をすることが分かった」(同社首都圏事業本部省エネルギー推進部営業企画課専任課長の冨田仁氏)。
同社ではCFDソフト「STREAM」を茨城県つくば市の中央研究所のサーバーで稼働させている。これまでCFDで解析するときは研究所に依頼することが多かったが、本社の設計者自身が研究所のサーバーにアクセスしてCFD解析を行う例も増えてきた。
「現在、社員のうちCFD解析技能者は85人にのぼっている。年間で約130件のCFD解析を行っており、うち半数は設計者自身で行っている」と同社首都圏事業本部第一エンジニアリング部設計二部設計三課の佐々木智明氏は説明する。
同社でCFD解析ソフトを扱える社員は100人を超えており、普通の設計ツールになりつつある。今回の省エネ改修工事でも、設計部門の技術者がCFD解析を行った。
S-CADで設計した室内などの3次元モデルを、STREAM用のデータに自動変換するソフトを開発している。これが完成すると、CFD解析はさらに効率的に行えるようになる。2011年の11月~12月には完成させる予定だ。
また、S-CADで作成した3次元モデルに、関連する情報をリンクさせることでデジタル化し、使いやすくする予定だ。 工事の完成図書はこれまで、分厚い書類だったため、必要な情報を探し出すのに時間がかかるという問題があったが、これが解決できる。