“建築界のF1レース”ならではの新技術、新アイデアを活用
関西でBIMを活用する5人の設計、解析の専門家は2011年5月、「BIM LABO」という団体を結成した。BIMを建築業界に普及させ、業務プロセスの革新をすることで社会貢献することを目的に、セミナーなどを開催している。
そのBIM LABOは、関西のBIMユーザーに声をかけてチームを結成し、BLK2011に臨んだ。「関西のノリで声をかけた人からは『オモロイやないか』と、断られたことはない」と同チームの鈴木裕二氏は語る。メンバーには、3Dプリンターで造形を行う会社や設備設計の専門会社、そして拡張現実感(AR:Augmented Reality)のシステムを扱う会社も含まれる。
個人としての参加が多い同チームだが、“建築界のF1レース”として最先端の技術やアイデアを駆使することには大企業チームに負けていなかった。
まず、意匠設計の段階で「生物学的アルゴリズム」という手法を用い、風水を生かした建物配置を検討。その結果、敷地の中央に小川が流れ、その周辺に各施設を配置することが決まった。これは住宅を手がけることの多い設計者の知見を生かしたものだ。
各施設の意匠設計と同時並行で構造解析やCFDによる風解析、そして施設内の温水、冷水の流れを検討した。
関西のチームという地の利を生かしてチャレンジしたのが、ARによるデモンストレーションだ。BIMで設計した施設のモデルデータをパソコンに入れて神戸ポートアイランドの敷地に出向き、現地の映像と重ね合わせて表示した。
現地には大判図面サイズの「ターゲット」と呼ばれる目印を配置した。BIMモデル上にもターゲットの位置が記録されている。パソコンに接続されたカメラで、ターゲットを視野に入れながら位置や向きを変えると、パソコンの画面には現地のリアルな映像とBIMモデルが連動して動き、まるでBIMモデルの建物が、実際に現地に建っているように見られる。現場のターゲットとBIMモデルのターゲットによって両者の位置を一致させられるわけだ。
ARの建築設計における活用については、東京・目黒のビム・アーキテクツを中心とするチーム「PLAN-B」でも実験していた。
小型のうちわサイズのターゲットをパソコンに接続したWEBカメラにかざすと、画面上ではターゲットの上に建物のBIMモデルが載ったように表示される。ターゲットの位置や方向、傾きを変えると、建物もそれに追従して動く。まるで模型を持っているかのような錯覚に陥りそうだ。
BIM LABOは実物の敷地上にあたかも実物の建物が建っているかのように見せるためにARを利用したが、PLAN-Bは模型を作る代わりにARを利用した。
もし、WEBカメラやパソコン画面の代わりに、カメラ付きヘッドマウントディスプレーを着けてこれらの映像を見ると、さらに直感的に現実の風景とBIMモデルを一体として見られるだろう。
両チームの取り組みは、ARが誰にでも分かりやすい建築設計のツールとして今後、手軽に活用できる可能性を示していた。
そのほかPLAN-Bでは、日陰シミュレーションや空調の外熱負荷を表す「PAL値」、風解析、そして杭の設計やガラスの種類によるエネルギー消費量にいたるまで、BIMモデルを基に様々な解析を行った。
PLAN-Bをはじめとする各チームの作業を見ていると、3年前は、BIMモデルを解析に活用することは「BIM2.0」として位置づけられ、珍しかったが、今やBIMの先進ユーザーの間では当たり前になった観がある。