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建物診断編:写震器(三井住友建設)

地震時の建物挙動を記録し、健全性を素早く判断

 現行の耐震設計基準で設計された建物の耐震性能は、建物のライフサイクルの間に極めてまれに起こる大地震に対しては、建物の崩壊を防止し、人命を保護できるレベルとして設定されている。

 問題は、地震後にその建物に入っても大丈夫かどうかという安全性の判断だ。東日本大震災では被災した工場を生産再開にこぎ着けるために製造ラインや製造装置の点検をする必要があったが、大地震で耐力が低下した建物が、その後に発生する余震に対して、どの程度の耐力を持っているかがなかなか分からなかったため、復旧作業が遅れる例もあった。

 そこで三井住友建設は、大地震に遭った建物が、余震に対してどれだけ健全性を持っているのかを素早く判断できるようにするため、「写震器」というシステムを開発した。建物の地震時の損傷程度を知る上で、最も厳しい部分をあらかじめ定めておき、その場所に「ターゲット」という目印を設置してCCDカメラなどで動きを光学的に追跡するものだ。

 1秒間に50~100個程度のデータを0.5mm単位で記録し、そのデータをLANやクラウド上のサーバーに送信する。収集したデータは、あらかじめ準備してある判定基準と照合することで、余震に対する健全性を素早く評価する仕組みだ。

余震に対する建物の健全性を判断する「写震器」(資料:三井住友建設)
余震に対する建物の健全性を判断する「写震器」(資料:三井住友建設)

 これまで地震時の建物の揺れを記録する方法としては、加速度データを使うのが主流だった。しかし、建物の被害状況を知るためには層間変位など、そのデータを建物各部の変形に変換する必要があった。

 しかし、建物の重量や剛性などにはバラツキがあるので、加速度から各部の変形が正確に出せないことも多かった。その点、「写震器」は振動による対象部位の軌跡をダイレクトにカメラにとらえられるので、建物主要部の変形状態を正確に知ることができる。

 カメラには非常用のバッテリーが付いており、停電時も30分間、記録できるようになっている。これらのシステムを維持するための電気料金は月に数百円程度という。CCDカメラを使った場合、通常は工場内部の監視用に使い、一定の大きさの地震波が来たときには自動的にCCDカメラをターゲットに向けて変位を記録するという使い方もできる。

 主要機器には既製品を用いているため、機器や回線の準備、設置などの費用は安価に抑えられるのが特徴だ。この写震器は、同社が設計施工したロッテ浦和工場に設置し、運用を始めている。

原発編(1):放射線量平面分布計測システム(三井住友建設)

情報化施工の技術で放射線量分布図を作る電動カート

 被災地やその周辺地域を中心に、福島第一原発の事故で汚染した土壌の除染作業が各地で行われている。これまでは10m~50m間隔で放射線量の分布を調べ、基準値を超える部分の土壌を削り取るという方法が一般的だったが、計測点の間隔が大きいため余分な削り取りを行うという無駄もあった。

 そこで三井住友建設は、「放射線量平面分布計測システム」を開発した。外観はゴルフ場などで使われる電動式カートに似ているが、広場などをひとっ走りするだけで、放射線濃度の色分けマップをリアルタイムで作成することができるのだ。

千葉県の流山市総合運動公園で計測中のカート(左)と放射線量計測結果の例(右)。除染前の高さ50cmでの線量分布(写真・資料:三井住友建設)
千葉県の流山市総合運動公園で計測中のカート(左)と放射線量計測結果の例(右)。除染前の高さ50cmでの線量分布(写真・資料:三井住友建設)

 この車両は平坦(たん)地用計測車と呼ばれる。電動式カートに放射線量検出器や水平精度±20mmの高精度GPS受信機を搭載し、1秒ごとに放射線量と位置情報をパソコンに取り込めるようになっている。

 取得したデータをパソコンで処理すると、画面上のCAD図面上に放射線量の平面分布図をリアルタイムに作れる。

 その特徴は放射線量の分布が細かく分かることだ。そのため、放射線量が高い表土だけをスポット的に削り取ることができる。表土の処理量は必要最小限で済み、削り取った後の放射線量もすぐに確認できるので、さらに削り取りを行う必要があるかどうかをその場で判断できる。1万m2程度の場所なら4~5時間で計測が可能だ。

平坦地用計測車に搭載された計測システム(資料:三井住友建設)
平坦地用計測車に搭載された計測システム(資料:三井住友建設)

パソコン画面に表示された放射線量平面分布図の例(資料:三井住友建設)
パソコン画面に表示された放射線量平面分布図の例(資料:三井住友建設)

 このシステムの開発には情報化施工技術が生かされている。振動ローラーなどでの締め固め作業で、ローラーが通過した回数をGPSのデータを利用して色分け表示するシステムがある。今回のシステムは、ローラーの通過回数を放射線量に置き換えて色分けできるようにしたシステムと言えそうだ。

 三井住友建設のグループ会社であるSMCテックは今年6月に、このシステムを使って千葉県の流山市総合運動公園内のピクニック広場とアスレチック広場の放射線当量率計測を行った。

 地表から高さ5cm、50cm、100cmの3つの位置で空間放射線量を計測し、汚染濃度分布状況が現地で即座にできることを確認した。このシステムは福島県が公募した平成24年度第1回福島県除染技術実証事業でも、7月19日付けで実地試験を実施する技術として選定され、今後、福島県内で試験を行う予定だ。