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「仮想と現実の一致」で手戻りを防ぐ体制が不可欠

 とはいえ、BIMソフトを施工段階に導入するだけでは問題解決にならない。その鍵は、仮想的なBIMモデルを現実の現場と一致させることだ。

 そのためには現場での施工や部材製作などのものづくりに着手する前に、BIMモデル上でこれからつくろうとする躯体や設備などを再現し、徹底的な干渉チェックを行えるような情報共有体制をつくっておかなければならない。

 そして、その情報をクラウドシステムなどによってリアルタイムに関係者間で情報共有するとさらに望ましい。

現場とBIMモデルを一致させ、クラウドシステムで情報共有することで手戻り作業は防げるのではないか(資料:家入龍太)
現場とBIMモデルを一致させ、クラウドシステムで情報共有することで手戻り作業は防げるのではないか(資料:家入龍太)

 しかし、問題は情報がそろうタイミングだ。設備工事会社にとっては意匠や構造の設計情報は、施工間際まで入手できないのが現状だ。つまり、配管や電線などのスリーブを入れたくても、どこにこれらの設備を通せるのかが分からない。BIMで干渉のない設計を行いたくても、肝心の意匠や構造の位置や形が決まらないのでは手の施しようがない。

 そこでよくあるのが、スリーブをあらかじめ多めに鉄骨や鉄筋コンクリート部材に入れておく方法だ。しかしこの方法だと、使わないスリーブや補強材がムダになり、予測が外れた場合は新たに現場でスリーブを開ける作業が必要になる。

 ある設備工事会社の関係者は「意匠設計者がトイレのデザインに異常に凝り、施工直前に大幅なレイアウト変更などが持ち込まれることがある。こうした変更が想定できそうな場合はスリーブも入れないことにしている。壁や床で鉄筋の通っていない場所を聞き、後で穴を開けたりコンクリートをはつったりする」と言う。

 これはスリーブだけでなく、アンカーボルトなどの設置位置も同様だ。「躯体などの設計情報が決まらないので、配管やダクトを上階のスラブに吊るアンカーボルトをどこに付けていいのか分からないので、20cmピッチで“田植え”のように取り付けたことがある。しかし、結局はこれらのアンカーは全く使われることがなく、高い足場を組んで新たにアンカーを設置しなければならなかった」(前述の設備工事関係者)。

鉄骨の製作現場。<本文とは関係ありません>(写真:片山ストラテック)
鉄骨の製作現場。<本文とは関係ありません>(写真:片山ストラテック)

 こうした厳しい現実のなかで、設備工事をスムーズに行うためには、元請け会社と折衝し、躯体などの設計時に配管やダクトなどの位置を決め、スリーブやアンカーボルトの設置位置も躯体の設計に反映させる。前述の設備工事関係者はこうした苦労を「躯体で泣いて、仕上げで笑う」と表現する。つまり躯体の施工時は様々な苦労を重ねることによって、後の仕上げ工事が楽になる、という意味だ。

 今回のスリーブ入れ忘れ事件では、設備工事会社のミスが原因とされているようだ。しかし、前工程の意匠や構造の設計についての意思決定がなかなか行われないなかでの設備工事は、大きなしわ寄せを受けるという実態もあるのだ。今回の責任の所在はともかく、現場でのミスを減らすための方策が必要であることは間違いない。