歴史的な建物に立て替え計画が持ち上がると、よく保存か解体かという二者択一の議論が巻き起こる。古い建物の一部を新しい建物に残す方法もあるが、建物全体は保存できない。そこで浮上してきたのが、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルを使った「バーチャル保存」という方法だ。このほど、下関市の旧・逓信省庁舎で先駆けとなるプロジェクトが行われた。
戦前、戦後の日本の経済や暮らしを支えてきた近代建築や現代建築が取り壊されることに――。こんなときによく起こるのが「保存か解体か」という二者択一の議論だ。
実際の建物を保存するとなると、その土地の利用は大きく制約され、保存のためのメンテナンスや大規模修繕などに多くのコストが発生する。そこで、よほどの建物ではない限り、解体されることになる。
そこで浮上してきたのが、建物の外観や内観をそっくりBIMモデル化し、データとしていつでも見られるようにする「バーチャル保存」という手法だ。これだと建物が解体された後でも、ウオークスルーという方法でかつて存在した建物に出たり入ったりしているかのようなイメージをディスプレー上で見ることができる。各部の寸法を測ったり、柱の傷跡や壁の落書きなどを確認したりと、解体後でも実物同様の建築史料としても活用できるのだ。
その国内初とも言えるプロジェクトが、山口県下関市で行われた。
100年後、建物がなくなっていても見られる
下関市の唐戸地区にある旧逓信省下関電信局電話課庁舎(現・田中絹代ぶんか館)は、1924年竣工の建物だ。
この建物の外観や内観をそっくりそのまま再現したBIMモデルがこのほど完成し、田中絹代ぶんか館で2月14日から3月29日まで開催中の「時を超えゆく“たてもの”の物語」という特別展の一環と、インターネット上で公開されている。
ユーザー自らがマウスなどを操作して、庁舎のBIMモデルの内外をウオークスルーできるので、まるで庁舎を訪れたような気分になれる(ただし、2月19日時点では調整中で見ることができない)。こうしたBIMモデルが残っていれば、100年後、この建物が解体されてなくなっていたとしても、いつでも昔の建物にタイムスリップして懐かしんだり、調査したりすることが可能になる。
今回作成した田中絹代ぶんか館のBIMモデルは、主に3つの用途に使われる。まず、展示用データとして。そして、建物の点検、修繕工事などにおける事前の作業確認。これにより安全対策のシミュレーションが実施実施できる。3つめが、車椅子などを用いた見学者の事前確認用途だ。身体にハンディーのある来館者が自分の障害度に応じて、「車いすで通れるか」「手すりは適切な位置にあるか」といったことを実際に訪問する前に確認できる。