インターネットで多くの人に活用される資料に

 「ALTA for VR」の価格は、3Dプロジェクターと専用スクリーンが各2セットついた「2面タイプ」で1090万円(税別)から、「4面タイプ」が1690万円(同)からとなっている。これらの価格にはALTAやVRソフト、専用パソコン、位置センサー、3Dメガネ、設置工事などが含まれている。

 ちょっと高いと感じるかもしれないが、1つのシステムがあれば無限の建物を体験できるので、実物の住宅展示場を製作するよりずっと割安だ。

 前述の旧逓信省庁舎のBIMモデルは、オートデスク、トプコン、NTTファシリティーズの3社がボランティアで行ったため、無料だ。実際のコストについては公表されていない。

 3Dレーザースキャナーでの計測などを手がける大浦工測の大浦章代表取締役は、「モデリングデータを見ていないのでなんとも言えないが、点群を目印に3D部材を配置する程度の寸法がシビアでないレベルのモデリングなら、スキャンに130万円、3Dでのモデリングに70万円程度でできるのではないか」と話す。

 今回の田中絹代ぶんか館のBIMモデルはもっと高精度かもしれないが、だとしても建物をBIMモデル化して保存するためのコストは、実物を保存する場合に比べてはるかに安いだろう。そしてBIMモデルはインターネットを通じて、どこでも誰でもが見られるため、建築史料としての活用度は、実物の建物よりもずっと高くなるという側面もあるはずだ。

 消えゆく近代建築や現代建築の保存運動には今後、もし保存がかなわない場合には、「バーチャルな保存」という選択肢を加えてもよいかもしれない。

 そして、BIMを導入している建築設計事務所や建設会社にとっても、建物のBIMモデル保存は新しいビジネスチャンスになりそうだ。