PR

 前回は、「ビッグデータ」と代表的なデータ活用技術である「データマイニング」技術の概説とともに、インフラ維持管理におけるビッグデータの活用について述べた。

 今回は、施設損傷の重要な記録情報である写真などの画像情報を活用するための画像解析技術と、インフラ維持管理への活用について考える。

 高速のインターネットが普及し、データストレージ装置が安価になり、デジタルカメラの性能向上と価格低下が進んだ結果、大量の画像・動画データを蓄積・活用できるようになった。

 インフラ維持管理の分野においても、多種・多量な画像・動画データの活用への期待は高まるが、多種・多量であるがゆえに、必要な情報が抜き出せず利活用が困難になるというケースが発生する。この状況を避けるには、重要なデータを容易に選別する技術が不可欠となる。

画像・動画からの情報の抽出

 北海道大学大学院の長谷山研究室では、画像・動画を数学的に処理することにより、必要なデータを認識する技術を開発している。

 下図の右上写真は、車の内部に小型デジタルビデオカメラを付けて撮影した動画から、レーンマーク(路面標示)と前方車両追跡をしたものだ。道路の線形情報をインプットすれば、あとはコンピュータが動画の中のレーンマークと前方車両を自動的に追跡する。また、道路に設置されているCCTVカメラなどからの撮影画像の中の車を検出し、車のサイズまでを自動的に判別することもできる。

 同じく左上写真は、北海道釧路で撮影された動画から解析エンジンで霧を除去して画面をクリアにしたものだ。下の写真は、デジタルビデオカメラの動画に対し、側方から来る車両、またはカーブをする車両を自動的に追跡する技術である。

画像・動画処理技術により、数学的な処理のみで動画像から必要な情報を抽出できる(第9回インフラ・イノベーション研究会「膨大なデータからの価値創出~画像・映像処理技術の最先端~(北海道大学大学院 長谷山美紀氏)」資料)
画像・動画処理技術により、数学的な処理のみで動画像から必要な情報を抽出できる(第9回インフラ・イノベーション研究会「膨大なデータからの価値創出~画像・映像処理技術の最先端~(北海道大学大学院 長谷山美紀氏)」資料)

 さらに、動画から歩行者を検出することも可能である。この技術では、人物の一部が道路上の物や自転車などに隠されている場合でも、人間が映っている時にどのような姿勢で歩いているのかを人間のモデルにマッピングさせることによって、隠されている部分の姿勢なども追跡することが可能となっている。

 これらの画像・動画処理は、いずれも手動での処理を必要とせず、数学的な処理のみで自動的に行うことが可能となっている。

 これらの技術により、インフラ維持管理では、例えば、監視カメラの監視業務の効率化が可能になりそうだ。道路管理などの現場で多数設置されているCCTVカメラに、車両検出技術と霧除去技術などを適用すれば、天候状況に左右されずに車両サイズも加味した交通量把握への活用が期待できる。また、リアルタイムの監視画像から立ち入り禁止エリアへの人の侵入や廃棄物の投棄などの様子を抽出し、監視者にアラートすれば、現場管理業務の効率化と共に、道路の利用者の安全確保や周辺環境の保全などにも役立つだろう。

類似画像検索技術

 また、前出の長谷山研究室では、ある画像から類似画像を検索する技術を開発している。 画像に付けられたテキストのタグ情報に基づく検索を行う従来の画像検索に対し、この技術では、画像の特徴量に基づいた検索が可能となっている。

 例えば、「クラーク像」に似た写真を検索したい場合、クラーク像の写真を投入すれば、それを基に類似写真をネット上から検索し、表示する。利用者が画像に対して明確な要求(テキストでの説明)が困難な場合でも、画像を基に人間の感覚に基づいた検索が可能となり、画像の認識性・発見性は飛躍的に向上する。膨大な画像が蓄積・流通する時代において、データを有効活用するのに非常に有効な技術と言えるだろう。この技術は、大規模データベース俯瞰型検索エンジン「Image Cruiser」として、データクラフト(本社・札幌市)がSaaSとしてサービス提供を開始している。

クラーク像の写真を入力して検索すると、ネット上の同種(銅像)の写真が集まる  (第9回インフラ・イノベーション研究会「膨大なデータからの価値創出~画像・映像処理技術の最先端~(北海道大学大学院 長谷山美紀氏)」資料から抜粋)
クラーク像の写真を入力して検索すると、ネット上の同種(銅像)の写真が集まる (第9回インフラ・イノベーション研究会「膨大なデータからの価値創出~画像・映像処理技術の最先端~(北海道大学大学院 長谷山美紀氏)」資料から抜粋)