PR

 2007年日本建築学会賞作品賞に、ナスカ代表の古谷誠章氏らが設計した茅野市民館(長野県茅野市)が選ばれた。選考委員会作品部会(部会長:長澤悟・東洋大学教授)は、意匠だけでなく市民参加というプロセスについても評価した。市民館を巡る出来事を取材した身としては、感慨深い。

 茅野市民館を建設するに当たって、設計者と茅野市民は50回にも及ぶワークショップを行ったが、必ずしもすんなりと話がまとまったわけではなかった。2005年10月にグランドオープンした後も、「マルチホールの舞台は寝そべった演技が見えにくい」と指摘が出て、わずか半年で座席の改修を余儀なくされた。一部の市民にくすぶっていた不満が表面化した格好だ。予算案審議の時期と重なったこともあり、市議会で責任の所在を問う声が上がった。

 茅野市民館は複合施設ということもあり、立場の異なる複数の市民団体がワークショップに参加していた。古谷氏は、時に相反することもある意見を調整しながら、多くの要望をくみ取っていった。それに従って、市民の建設計画に対する思い入れは強くなり、次第に要求水準が上がっていった。完成してみると、ワークショップに参加していなかった市民から指摘が出た。それがマルチホールの舞台が見えにくいという問題だった。

 市は、市民参加を尊重して行政が口を挟まないという当初からの方針を変えなかった。古谷氏は、辛い状況のなかで設計を進めざるを得なかった。

 参加者が熱心になるほど、深みにはまっていく――。茅野市民館の建設計画は、市民参加の難しさをまざまざと感じさせられるプロジェクトだった。建築学会の発表資料には、こうした紆余曲折に関する記述はないものの、舞台裏には設計者らの想像を絶する苦労があったことを、ここに記しておきたい。